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~店主の想いの実現に向けて「喫茶店からコーヒー専門店へ」~
静岡県熱海市 宿泊業、飲食サービス業 従業員数1名
1979年創業の「coffee house 茶々」は、熱海市清水町の路地裏に佇む自家焙煎珈琲店。店内で焙煎する豆を使い、一杯ずつ丁寧にハンドドリップするコーヒーと手作りケーキが看板。
本件は、設備更新にかかる融資相談をきっかけに店主の想いを引き出し、数値分析と物語性を組み合わせた支援を行った事例。支援により熱海ゆかりの文学『金色夜叉』にちなんだ新商品を開発。独自性が評価され、雑誌や観光ガイドにも紹介された。現在は店舗営業に加え、コーヒー豆の卸売や土産品販売、EC通販を通じて地域内外へ熱海の味を届けている。
本事例のポイント
▶マル経融資(小規模事業者経営改善資金)※から始まった伴走支援
※商工会議所や商工会などの経営指導を受けている小規模事業者の商工業者が、経営改善に必要な資金を無担保・無保証人で利用できる日本政策金融公庫の融資制度
▶事業者が本当にやりたいことの実現に向けたサポート
▶長女への事業承継
当社の背景
「coffee house 茶々」は、自家焙煎珈琲店として地元の芸妓や常連に愛される一方、観光客にも「熱海の隠れ家カフェ」として親しまれていた。
当時の主な事業は喫茶事業であり、提供するコーヒーを焙煎するために使用していた小型焙煎機が老朽化していた。そのため、新たに業務用小型焙煎機を導入したいという具体的な要望から、融資の申請を検討されていた。
融資書類を整えるにあたり丁寧にヒアリングを行ったところ、店主からは「本当は喫茶店よりも、コーヒーを専門に提供する専門店にしたい」という強い想いを伺うことができた。この率直な言葉から、想いの実現に向けた支援がスタートした。
支援の流れ
【現状分析による経営課題の洗い出しと新たな方向性の検討】
まずは、事業の現状を正確に把握するため、全メニューを対象にABC分析を行い、料理とドリンクの売上貢献度を明らかにした。結果、当時の売上の約4割を食事メニューが占めていること、また売れ行きの悪い不採算メニューも多数存在することが判明。すぐに食事メニューを廃止してしまうと売上が大幅に減少し、経営が立ち行かなくなるリスクが高いことから、喫茶店としての体裁を維持しながらも、段階的に食事メニューを縮小し、不人気メニューを整理していくことが現実的な改善策であると判断した。
分析の結果から浮かび上がった課題は「食事メニュー依存からの脱却」だった。売上の4割を占める食事メニューを縮小するためには、それを補う新たな収益源が必要。店主の「コーヒー専門店を目指したい」という意向も踏まえ、当社の強みを洗い出した上で、自家焙煎技術を活かした新商品の開発を進めることにした。
【新商品の開発】
開発にあたり注目したのが、熱海という地域性と文学的背景だった。熱海は尾崎紅葉の『金色夜叉』の舞台として広く知られており、観光資源との親和性が高い土地柄である。さらに、当店舗が元・読売新聞の記者宿舎を買い取って改装した経緯があり、『金色夜叉』が読売新聞に連載されていたという事実と重なる部分があった。この「地域資源」と「店舗の歴史」を組み合わせることで、物語性のある商品開発が可能になると考えた。
また、当社はこれまでBtoC向け商品を開発したことがなかったため、消費者に選んでもらいやすくする技法として、複数選択できる商品の開発を助言。ラインナップを増やすことで、まとめ買いやセット販売等客単価を上げる狙いもあった。
こうして誕生したのが「貫一ブレンド」と「お宮ブレンド」である。両ブレンドは同じ生豆を使用しながら焙煎度合いを変えることで、味わいに違いを出した。貫一ブレンドは深煎りでコクと苦味を強調し、報われない恋の苦さを表現。一方のお宮ブレンドは浅煎りで爽やかな酸味を活かし、甘酸っぱい恋心をイメージしている。
このように文学的なストーリーを背景に持たせることで、コーヒーそのものの味わいに加えて「熱海でしか楽しめない体験」として付加価値を生み出すことができた。焙煎機更新による品質安定化とともに、観光地にふさわしい差別化戦略を実現できたことは、大きな成果であった。
【販路拡大とブランド認定支援】
新商品の開発に合わせ、販路拡大の支援も行った。特に重視したのは「熱海ブランド」認定。理由は、熱海商工会議所が推進するご当地ブランド「ATAMI COLLECTION A-PLUS」に認定されることで、熱海駅ビル「ラスカ熱海」内のブランドショップで販売可能となり、観光客向けの販売チャネルを強化できるからである。
認定に向けては、商品の特徴やストーリー性、品質管理の体制を整理し、申請書類やプレゼン資料の作成をサポート。結果、第7回認定審査において、貫一・お宮ブレンドが正式に熱海ブランドに認定された。
認定後はラスカ熱海のブランドショップでの販売が始まり、観光客需要を取り込むことに成功。また、地元の飲食店や旅館などからの卸売依頼も増え、コーヒー専門店としての基盤をより強固にすることができた。
伴走支援の効果
数値面では、年間売上高が支援前と比較し42%程伸長。食事メニューの撤廃により一時は売上が低迷したが、コーヒー豆の卸売・小売開始によるコーヒー専門店化の推進によって収益構造を転換できた成果である。喫茶事業に依存していた頃とは異なり、現在はコーヒー豆販売や土産需要が収益の柱となりつつある。
また、貫一・お宮ブレンドが「熱海ブランド」に認定され、ラスカ熱海のブランドショップにおける売上ランキングでもCランクからBランク上位に位置するまで成長。観光客向け商品として確かな実績を残し、地元の看板商品として認知を獲得できた。さらに、熱海駅前の土産物店や、市内で最も老舗とされる旅館との新規取引も実現し、卸売チャネルの拡大にも成功。
加えて、経営基盤が強化されたことにより、次世代への事業承継も具体化。すでに長女が事業に参画しており、卸業務は長女が担っている。令和8年度には事業承継も予定。これにより「茶々」の事業は世代を超えて継続し、地域に根差した喫茶文化とコーヒー専門店の両輪でさらなる発展が期待される。
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熱海駅前商店街にある土産物店のディスプレイ
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コーヒーの味を引き立たせる自家製チーズケーキとコーヒー
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店内にディスプレイされた各産地のコーヒー豆
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