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著者: 鈴木 友絵

~菓子と酒造の組合が連携した日本酒スイーツ開発プロジェクトを支援~

福島県菓子工業組合(福島県郡山市 サービス業)

福島県菓子工業組合は「笑顔で届ける!ふくしまのお菓子」をキャッチフレーズに、長年業界発展に向けた活動を行ってきた。福島県内には高い技術力を持つ酒蔵が多いことから、組合理事長は日本酒を使ったスイーツの開発に着目。理事長の構想をもとに新規ブランドの立ち上げを提案し、2020年から2022年の3年間に渡ってブランドのPRと販路開拓を支援した。


本事例のポイント

【理事長のアイディアをもとに新規ブランドの立ち上げを提案】
2020年の支援開始当初、理事長のアイディアは「日本酒を使用したスイーツの共通レシピ」を作成し、組合員である菓子店と共有するという内部向けの内容であった。詳しく対話と傾聴を行ったところ、組合員向けにレシピを印刷し配布するという着地点に留まっており、その後のストーリーまでは具体化されていなかった。そこで、理事長の希望やアイディアの根本を崩さないように注意しながら、事業の狙いやターゲットなどをより明確化させ、方向性を導いていくこととした。

【組合同士の連携プロジェクトを発足】
レシピを共有するのではなく、それぞれの菓子店の歴史や和洋の得意分野を活かしたスイーツを組合員が自由に開発できるようにすることを提案。それを組合が「福島の日本酒を使ったスイーツブランド」としてまとめ、マスコミ等を通じて宣伝していくように軌道修正した。また、菓子店同様に酒蔵にもそれぞれ個性があることから、製品開発にあたっては共通の日本酒を使用するのではなく、地元の菓子店と酒蔵がマッチングできるような体制を構築する必要があり、福島県酒造協同組合に協力を依頼し「組合連携型プロジェクト」としてのスタートが実現した。

当社の背景

福島県菓子工業組合は1960年5月、組合員企業への指導教育と生産調整のための合理化事業並びに各種の共同経済事業を目的に設立。以来、業界の発展向上のために尽力しており、当組合の主たる事業である菓子原料の共同購買事業では、原料の仕入価格高騰など厳しい状況の中、組合員へ安定した供給体制を確立している。
支援開始当時、理事長は福島県において金賞受賞酒が2018酒造年度までで7年連続日本一であることと、スイーツと日本酒の相性が良いことに注目しており、県産日本酒を活用した新商品開発について模索する中、福島県中小企業団体中央会への相談に至った。

支援の流れ

【菓子店と酒蔵のマッチングでスイーツ開発をスタート】
事業開始にあたり、プロジェクト名を提案。日本「酒」と「甘」味のコラボだということが視覚的にわかり、物事の盛んという意味がある「酣(たけなわ)プロジェクト」と命名した。ブランドロゴについては、中央会職員による支援チームが裏方でサポートしながら、菓子組合と酒造組合の役職員が主体的に検討を重ね決定した。また、菓子店と酒蔵のマッチングについては、1年目は酒造組合の協力を得ながら地元が近いところ同士に支援チームが声がけし、2年目以降は菓子店自らの声がけを促した。スイーツの開発については、個々のペアに任せるのではなく、組合という組織を活かした試食会を開催するなど、菓子店と酒蔵が意見を出し合い改良していけるように工夫した。

【「たけなワングランプリ」を開催しSNSを活用してPR】
開発したスイーツは、2020年3月に初の商品発表会の場を設け披露した。支援チームが県の福島県産品振興の担当課長を招待したことが功を奏し、「福島県観光物産館」と「日本橋ふくしま館MIDETTE」での販売フェアが同年翌月に開催されるなど、販路開拓が早期に実現。一方、商品発表会自体が当初懸念された内部向けのものになってしまい、マスコミや一般消費者に向けたPRが不足したことや、組合主体ではなく支援チームの運営となったことが課題として残った。そこで2021年は実行委員会を立ち上げ、菓子組合役員を委員長としてプロジェクトを再スタート。審査員による評価および消費者が参加できるSNSを活用したコンテスト「たけなワングランプリ」を開催する新たなアイディアが生まれるなど企画内容が充実した。

このコンテストには多くのマスコミが注目し、グランプリ開催以降も様々なメディアで取り上げられ消費者に対する認知度も向上。消費者がSNSを通じて投票する仕組を作ったことで、直接的なPRも実現した。コンテストの運営に関しても、実行委員会の存在が組合と支援チームに更なる一体感を生み出し、事業の成功を後押しした。2022年は組合が主導してコンテストを実施。前年度以上に消費者参加を促すため、各菓子店へのディスプレイ掲示やチラシ配布、菓子店のSNSアカウントによる宣伝強化といった仕掛けを施した。また、プロジェクトに注目した「星野リゾート磐梯山温泉ホテル」の声がけにより、コンテストでの特別賞の付与や同ホテルでの販売フェアが実現するなどPR効果もアップ。福島県とも引き続き連携し、イベント出店によるブランドのPRや販路拡大を果たした。

【支援チームで土台を構築し、自走化につなげる】
プロジェクト開始当初は、支援チームを中心に企画・準備をすることとなった。組合執行部と対話と傾聴を重ね、深く関与するほど組合との距離は近くなったが、一方で、支援チーム主導になることが組合の自走化に向けて弊害となることが課題でもあった。まずは支援チームで土台を構築し、組合関係者が主体性を持って取り組めるよう伴走支援を行い、理事長を中心に理解を深め自走化につなげていった。

伴走支援の効果

プロジェクトに参画した菓子店は21社、酒蔵は19社で、計32種類の日本酒スイーツが開発され、酣プロジェクトとして共通ブランド化を実現。SNSを活用した2021年と2022年のグランプリでの消費者からの投票総数は計1729票となった。前述の通り、内部向けの共通レシピ化というアイディアを組合員による自由な開発と外部向けのPRに軌道修正した結果、どら焼き・大福・ゼリー・スフレなど様々なスイーツが誕生。プロジェクトは狙い通り多数のマスコミや消費者の注目を浴びることとなった。早期から首都圏の販売会を実現し、SNSを活用したことで県内に限らず広く周知することができた。

また、菓子組合だけでなく連携先の酒造組合でも、日本酒離れが進む若者や女性に対するスイーツを切り口とした新たな需要開拓につながり、組合イベント等でのスイーツ活用が見られた。プロジェクトの実施体制については、支援チームのノウハウを継承し、組合の自走化に向けて少しずつ動き出している。組合役員や青年部が主体的にプロジェクトを実施できる体制を整え、支援の終了=ブランドの停滞とならないよう、引き続き伴走支援を行っていく。

プロジェクトロゴ

日本酒×スイーツ

たけなワングランプリ表彰式

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