ここから本文です。

~資金繰り表と在庫管理の連動により、安定経営を実現~

愛知県名古屋市 卸売業、小売業 従業員数8名 資本金300万円

愛知県名古屋市で高級外車を販売する当該企業は、創業社長の確かな目利きで車両を厳選し、セレブ客の人気を集めてきた。しかし、急激に進行する円安などの影響で業績が悪化すると、リスケジュール(条件変更)を行って資金繰りの維持を図ることとなった。加えて、これまでのようなマニアックな車両を中心とする仕入手法も逆効果となり、在庫を抱え込んだままの無理な購入から資金不足を招いていた。保証協会職員による支援チームは在庫管理と資金繰り表を連動させることで、資金と収益の流れを見える化。新たな融資を受けるための金融調整などもサポートし、安定経営に向けた伴走支援を行った。


本事例のポイント

【ローカルベンチマークを活用したビジネスモデル理解】
対話ツールとして、企業経営者と支援機関がコミュニケーションをとりながら経営状態などを相互に理解するローカルベンチマークを活用。この過程を通じて、当該企業のビジネスモデルへの理解を深めるとともに、経営者に自社の強みと弱みについて「気づき」を促すことができた。「経営は自己責任」とする経営者からは、初めのうち前向きな態度は見られなかったが、丁寧な傾聴と、時に共感の意を示すことで徐々に距離を縮め、伴走支援についても理解を深めてもらうよう努めた。また、お互いの車遍歴といったプライベートな話題で意気投合するなど、一個人として経営者に真摯に向き合うように努めたことも信頼関係の構築に繋がった。

【今後の事業展望に向けた問題点及び本質的な課題の共有】
対話と傾聴によって浮かび上がった問題点の1つめは、「資金繰りを意識しない場当たり的な仕入」。支払能力が乏しい中、マニアックかつレアな車を見つけると無理に購入し、資産の固定化によって次の仕入ができない状況を引き起こしていた。2つめは「従業員との意思疎通の欠如」。値引のルールがないため販売機会の損失を招き、成果が収入に影響する歩合給の割合が高い従業員ほど不満が蓄積していた。3つめは「慢性的な資金不足」。新たな資金調達手段が見つからない手詰まり感が、業績足踏みの原因にもなっていた。これらの問題点を踏まえ、2つの課題「資金繰りを意識した仕入・販売ルールの設定」と「借入正常化及び資金調達能力の向上」を設定した。

当社の背景

当社は自動車小売業者として主にイタリア高級車を並行輸入によって調達し、高級外車を好む富裕層をターゲットに販売を展開してきた。下取り車を中心とした中古車販売も行い、創業後から業績は順調に拡大推移していたが、急激な円安による仕入価格の高騰や首都圏への支店開設による資金の分散等が影響し、赤字に転落。資金繰りの悪化を受けてリスケジュール(条件変更)による返済緩和の金融支援を要請するに至る。その後、独自の経営努力によって黒字に転化したものの、資金不足による仕入機会損失の発生などで収益の確保に限界を感じていた。

支援の流れ

【在庫管理と資金繰り表を連動させた経営管理ツールの作成・実装支援】

課題解決のためにまず行ったのが、Excelで在庫管理と資金繰り表を連動させた経営管理ツールを作成することだった。基本的な仕様は経営者と打合せをしたが、細かな点は実際にツールを使う事務員とも協議し、今後の自社でのメンテナンスが可能となるよう実装支援した。

また、借入の正常化及び資金調達能力の向上には、全債権者が納得のいく経営計画書が必要になると説明。5年間の経営計画書を作ることになり、アクションプランは自社の強みを認識する経営者自身で作成し、計数計画については顧問税理士のサポートを受けながら作成した。なお、金融支援のプラン作成については、経営者の意向を確認しながら支援チームが取りまとめた。

【借入正常化に向けた金融調整】

支援チームは借入正常化に向けた取引金融機関に対する金融支援要請にも同行し、ローカルベンチマークを活用して当社の強みである知的資産を説明した。説明前こそ難色を示していたメイン金融機関であったが、徐々に前向きな姿勢に翻意し、最終的には借入正常化に合わせて新規運転資金の調達も受けられることとなった。

【フォローアップ】

顧問税理士とも連携し、キャッシュフローと利益確保のバランスなどの数値データを定期的に把握。その上で、経営者に面談し、アクションプランの進捗状況、経営上の悩みなどをヒアリングするなどのフォローアップを実施した。伴走支援期間中に従業員による不正行為発生などのアクシデントがあったが、在庫管理と資金繰りを連動させた経営管理ツールの実装が功を奏していることもあり、景気の悪化を感じさせない順調な業績推移となっている。

伴走支援の効果

経営管理ツールの導入により、自社の経営状態が見えるようになったことが大きく評価された。経営者からは、自身の経営について自動車の計器に例えて「支援を受ける以前は計器を見ずに闇雲にアクセルを踏み続けるという経営を行ってきたが、支援後はナビや計器を見て適切にハンドルを操作し、アクセルやブレーキを踏むという経営ができている」との発言が得られた。

また、借入正常化によって資金調達能力も向上し、手元にあって流動的に使える資金にゆとりができたことで仕入機会損失も減少した。また、車ごとにいくらまで値引きしてよいのか、販売ルールを設定したことで従業員との意識統一が図られ、売上が向上。収益力のアップが債務超過の解消に繋がり、更なる運転資金の充実という好循環が創出された。

コンテンツフィルタの内容が入ります。