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~希少な卵で繋がる複合店舗「海辺のテーブルエッグ」の新規開業支援~

株式会社オークリッチ(新潟県村上市 農業・林業 従業員数10名 資本金300万円)

新潟県最北端の村上市山北(さんぽく)地区で養鶏業を営む株式会社オークリッチは、放し飼いによる良質な卵が取引先から大きな支持を得て良好な関係を築いていた。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大により自社卸売ルートは縮小。卸売が約70%を占めていたことから販売機会を大きく損失する。このため、新たに消費者に向けた付加価値のあるビジネス進出での売上向上を目指し、小売・飲食の複合店舗の開業を計画。飲食業のノウハウが一切ない中で、山北商工会と地元信用金庫でチームを構成し新規事業を支援した。


本事例のポイント

【唯一無二の特性を活かした地域の観光要素を持つ複合型店舗】

当事業を計画するにあたり、経営者が感じていた事業環境の問題点は大きく2つあった。1つは自社卸売の販路の限界。もう1つは地域の過疎化による需要の減少と雇用の縮小であった。SWOT分析から自社の強みは、「全国で1%に満たない放し飼い養鶏の希少性と家畜臭のない養鶏場の実現」と、「養鶏場見学に訪れる提携旅行会社や自社の卵を評価してくれるシェフ・パティシエとのつながり」であることを再確認。唯一無二の特性を活かし、養鶏場と隣接した場所に小売・飲食が可能な複合店舗の開業を目指した。

【経営者の信念を大前提としたチーム一体となった事業支援】

ターゲットを新たに消費者とすることも飲食業への進出も大きな挑戦であったが、自社の持つ「良質な卵」という最大の武器と支援者のノウハウを掛け合わせることでフォローした。開業以来大切にしてきた鶏の飼育方法を改善し続け、その鶏が産む卵の美味しさや安全性を消費者に直に伝えていけることは当社にとって意義のあることであり、経営者の根底にある信念を大前提として想いを共有した事業支援を行った。経営者の意思決定からブレークダウンできるチームを作り、計画策定は信金・商工会・プランナー・設計士がお互いに意見を交わして完成。開業は店舗スタッフ主体で細部を決定し、チームワークを構築した。

当社の背景

1962年の開業以来、鶏の持っているチカラを最大限に引き出せるように水・空気・土・光を十分に与え、自由に動き回れるストレスフリーな環境から得られる健康な卵の生産と提供を行ってきた。その取組と卵の品質が首都圏や新潟県内の飲食店から評価され、取引を継続してきたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響により売上が激減。飲食店の閉店、卸売に限られた自社流通チャネルによる価格の吊り上げ、小売環境がないことが問題点としてあがり、その解決策として事業所向けビジネスから消費者向けビジネスへと全く異なる事業領域への進出を決断するに至った。

支援の流れ

【事業計画スタート時に協力者が集結し経営者の覚悟を後押し】

地元信用金庫と山北商工会が共同で新規事業の計画を支援し、事業再構築補助金を申請した。また、経営者と縁があった店舗プランナー、設計士が設計と予算構成を担い、チームとなって支援。事業計画スタート時に協力者がこれだけ集結したことで、経営者から「補助金申請が不採択であってもこの事業は成し遂げる」と覚悟が伝えられた。事業計画については必ず経営者に意思決定してもらうこととし、相談に対して迅速かつ確実な返答を行うことで信頼関係を構築した。なお、飲食業のノウハウのない当社に対し、「事業化見込を示すための原価・人件費等を組み入れた収益計画の作成」や「設計士から提案のあった図案の検討(スタッフの動線予想)」などを行い、事業イメージを描いてもらった。

【店舗スタッフの話し合いでコンセプト「卵から笑顔」が決定】

補助金採択を受け、店舗建設と並行してスタッフの確保と組織作りに着手することになった。スタッフの募集については土地柄インターネットで求人情報を収集する文化がなく、効果的な媒体について議論を重ねた結果、パート・アルバイトは地域の折込広告から口コミで拡がることを狙い、調理スタッフは都市部の調理師学校に求人を出すことにした。
パート・アルバイトの応募者とは希望に沿えるよう、予め1週間のモデルシフトを作成。本人の希望に沿った稼働が可能か検証し、最終的には経営者の採用判断を仰いで飲食業調理経験のある正社員、パート・アルバイトを合わせて6名の雇用創出に繋がった。
店舗引き渡し後はスタッフに主体性を求め、開業に向けて細部まで決めてもらうこととした。時が進むにつれ、制服や食器など断片的な決定しかなされていない進み方に危機意識の差が感じ取れたため、開業までにやるべきことを図式化して示すと同時に、コンセプトの必要性を伝えた。スタッフ間で意見を交わしてもらい、「卵から笑顔を」というコンセプトが決定。このことを軸に準備を進め、晴れて新店舗開業の日を迎えた。

【高品質な卵を主役に「他店と競争しない店」を目指す】

新店舗のネーミングは「海辺のテーブルエッグ」とした。日本海を眺望するロケーションと普段使いの卵を意味する「テーブルエッグ」を組み合わせ、毎日口にする食品だからこそ体にプラスとなる高品質なものを提供したいという当社の思いを込めた。開店告知のパブリシティでは、他の飲食店で提供するメニューには取り組まず、あくまで美味しい卵が味わえる店、ここにしかないものと出会える店を目指すことをアピール。決して時流を追わず、あくまでも「主役は素材」を第一に「他店と競争しない店」を謳った。メニューはシンプルに「卵かけご飯」「カルボナーラ」「オムレツ」「オムライス」の4種類、最低価格は卵かけご飯の1,000円とし、良質な食材を前面に出した。

伴走支援の効果

自社の強みである「鶏の放し飼いによるストレスフリーな環境」を活かした「主役は素材の卵」という経営者の思いを開業まで支持したことで、ヒトを惹き付けるストーリー構成にすることができた。プレスリリースを提供した地元新聞社から取材依頼が舞い込み、開業日当日の朝刊で記事が掲載され、その記事をきっかけにテレビ局、グルメ雑誌をはじめ立て続けに取材のオファーを受けるようになった。これらが大きな宣伝効果となり、開業から2ヶ月は計画策定時の予測の145%の売上を計上。飲食業のノウハウのなかった当社だが、ブレずに計画・準備を進めてきたことでノウハウも蓄積され、季節限定メニューの提供や催事への出店など様々な施策を打ちながら販売促進を継続している。今回の支援で当社が置かれている市場環境に対して整理が図られ、協力関係にある人材を洗い出せたことから、計画当初に打ち出した連携によるキャンペーンのアイディアがストックされ、今後の幅広い展開に仕掛けを残していることにも期待する。

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