ここから本文です。

~千葉県の町工場が目指す一次請可能な体制と高利益体質を実現する組織構築~

株式会社アガツマ(千葉県君津市 製造業 従業員数19名 資本金500万円)

金属加工製品やレーザー加工製品の企画・設計・製造及び販売を行う株式会社アガツマは、建設メーカーや金属加工メーカーなどを主な取引先に事業を発展させてきた。即納体制による「当日発注→当日製造→翌日渡し」のクイックレスポンスを得意とし、経営者は一次請可能な体制を構築するために社内体制の整備を進め、保有する技術力や即納体制の強化を図りたいと考えていた。経営者の考えを具体化するために、「人材育成」「注力分野の塗装部門の強化」「既存事業の再構築による販路拡大」の3つの課題を掲げて伴走支援を実施した。


本事例のポイント

【SWOT分析に基づく議論で本質的課題を設定】

ホワイトボードを活用して各参加者の当社に対するSWOT分析を行い、それを基に当社の課題を探った。この方法により議論している内容が可視化され、従業員を含めたプロジェクトチームの参加者の意見が非常に活発に集まった。支援開始前は増益を図るために「元請企業になること」が経営者の希望だったが、支援を通じて「ベテランの専務が長年蓄積してきた業務上のノウハウを社内の人材に伝承しながら事業強化を図っていくこと」を現状の重要な本質的課題として設定。ただ継承するだけではなく、「当社が今後強化していくべき事業領域におけるポイントと自社ノウハウの体系的な整理」を重視した。

【異なる複数の専門家からのアドバイス】

新業務となる塗装部門を組み入れた業務全体の見直しについては、外部からの知見を得るために関東経済産業局の「知財経営定着伴走支援事業」と特許庁の「中小企業知財経営支援金融機能活用促進事業」に応募。採択を得て、経営戦略や資金戦略、業務プロセス改善のプロなど、異なる複数の専門家からの支援を受け、アクションプランの策定や知財ビジネス提案書の作成に繋げた。

当社の背景

1970年に玩具の製造を開始した当社は、2008年に株式会社アガツマへ商号変更。その後、金型部品の製造やレーザー加工品の企画・設計・製造を開始し、2014年に千葉県経営革新企業に認定された。“「こんなのほしいな!」を形に”をキャッチコピーに事業展開しており、漫画のような漠然とした絵から精緻な図面を作成して製品化し、翌日届ける即納体制と企画力を最大の強みとしている。一方で、次世代へのノウハウの伝承や注力分野の強化、既存事業の再構築といったさまざまな課題のために、これから決めていかなければならない多くの事柄を抱えていた。

支援の流れ

【当社の強みを踏まえた体制作りの提案】

製品の企画・設計・製造までをワンストップで提供できることが、当社の強みである即納体制を支えている。一般的な工場で使用する図面は工程ごとに作成するケースが多いが、当社の図面は一枚しか作成しない。つまり、全工程を見通せる人が作成しなければ製品には至らず、また図面を読む人も全工程を考えながら読む必要がある。しかし現状では図面を作成、読み込むことができる企画力のある社員は一部に限られていた。各作業部門が共有できる業務の流れと人材育成を実施していくためには、図面を読める従業員を育成することが重要であり、スキルを身に付けた従業員が図面と工程手順書を作成し作業指示を出せる体制作りを提案。これを具体化するためには、一年間程度のアクションプランを作成し、担当者を明確にして従業員全員で共有することが成功の近道であることを説明した。

【3C分析による強みの洗い出し】

当社の「市場・顧客」「自社」「競合」の3つについて精査する3C分析を実施したところ、顧客からの塗装に関するニーズが多く、近隣に焼付加工ができる競合先はないことがわかった。ワンストップでの提供を実現する即納体制に塗装部門が追加されれば、当社の技術力の高さをより顧客にアピールする機会となる。このため塗装工場の建設を計画したが、塗装用機械の購入及び塗装工場の建設に総額104百万円がかかることから、計画の見直しを検討。事業再構築補助金の申請支援を行い、採択に至ったため当初の計画通りに建設に着手することができた。

【組織の再構築に向けたコンサルティング】

塗装業務を組み入れた業務全般の組織改革と、一次請可能な組織体制の構築に向けたアドバイスを受けるため、関東経済産業局の「知財経営定着伴走支援事業」に応募。三菱UFJリサーチ&コンサルタントの担当者を中心に中小企業診断士、弁理士、ブランドコンサルタント及び関東経済産業局のメンバーでチームを構成し伴走支援を実施した。支援チームから「塗装業務の強化」「既存業務の再構築」「人材育成の強化」の3つの視点で、「ターゲットの具体化」「ターゲットに訴求していくべき当社のノウハウの整理」「当社が有する業務上のノウハウのビジネスフローごとの整理」「若手職員へのノウハウの伝承」などの提案があり、これらの内容を正式に決定して担当者とアクションプランを策定した。
また、異なる視点からも知見を得るため、特許庁の「中小企業知財経営支援金融機能活用促進事業」に応募。株式会社パテント・ファイナンス・コンサルティングの専門的なアドバイスを受けながら、知財ビジネス提案書の作成に至った。

伴走支援の効果

塗装業務を追加したことにより、売上高は10%程度増加し、期間利益も10%程度増加。一次請企業を目指すに当たり、異なる専門家からの支援受けた結果、当社のものづくりに関するノウハウをきちんと伝承していくことが最優先事項であることがわかった。また、ノウハウの伝承については、顧客別、ビジネスフローごとに体系化して実行していくことの大切さについても理解できた。伝承業務については担当者を決め、早急にアクションプランを作成して取組を開始。新入社員を4名採用して内2名を塗装工場の専属体制とし、アクションプランに基づいて指導を開始している。販路拡大については、帝国データバンクのデータから塗装を必要としている企業をリストアップし、営業訪問を開始。当社のノウハウの頭脳である一部社員の企画力を全社員が吸収していくことが、当社の最大の課題であると認識して取り組んでいる。

コンテンツフィルタの内容が入ります。