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〜自分事化されたプロジェクト推進を通じてメンバーの視座を引き上げる〜
株式会社大倉製作所(新潟県燕市 金属加工業 従業員数17名 資本金900万円)
本支援では、不良率の削減と求人コンテンツの見直しという2つのプロジェクトについて、それぞれ個別にプロジェクトチームを組成し、課題解決に臨んだ事例である。特に、不良率の削減については、過去に社内での不良品対策の検討が個人への非難に繋がってしまい、離職者が発生してしまったという背景があったため、不良品防止対策をどのようにして仕組みやルールとして社内に定着させ、チームとして対策を検討・実行できるようにするかが本質的な課題であると考えられた。社内でプロジェクトチームを組成して管理・情報共有システムの導入と、システムを活用するための業務フローと運用ルールの策定を行った。また、この過程で、実際にプロジェクトを遂行するという経験を積むことで、プロジェクトメンバーが自立的に動けるチームへと成長を遂げた。
求人コンテンツの見直しについても、当初はプロジェクトの必要性についてメンバーが十分腹落ちしきれておらず、後ろ向きな姿勢が見られたが、「ご自身にとっての入社の決め手は何だったか?」といった、メンバー自身の経験に照らし合わせるような質問を投げかけることで、徐々にプロジェクトを自分事化させていった。
本事例のポイント
【信頼関係の構築】
当社においては、支援が入る直前、社内での不良品対策が個人への非難に繋がってしまい、離職者が発生してしまったという背景があり、社内の情報共有やコミュニケーションの仕方について課題感を持っていた。
支援初期のヒアリング時にはこうした背景についての話は出てこなかったが、取組課題の優先度や緊急性に関する対話を進める中で、上記の経緯について経営陣から発言があったため、支援チームから、まさにそうした点が本質的な課題であること、また、支援チームもミーティングに参加し、個人攻撃に繋がらないよう一緒に対応策を検討していくことができるとお伝えし、会社としてお悩みの点について寄り添う姿勢をしっかりと示した。経営陣からもその必要性について理解を得ることができ、不良品防止対策を会社組織として行っていくための仕組みやルール作りについて社内プロジェクトチームで検討していくこととなった。
【プロジェクト推進を通じたメンバーの成長】
本プロジェクトでは、不良率の削減と求人コンテンツの見直しという2つのプロジェクトについて、それぞれ個別にプロジェクトチームを組成し、課題解決に臨んだ。当初は課題解決の取組に対しては否定的な姿勢を見せていたメンバーも、取組の必要性を自身の経験に照らし合わせて考えることで、徐々に前向きな姿勢に変わっていった。また、プロジェクトに参画したマネジメント層も、当初はプレイヤーとしての関与が大きかったが、プロジェクトリーダーの中堅社員の動きを目にする中で、徐々に経営目線へと視座が高められていった点もポイントである。
当社の背景
当社は金属加工による産業用部品製造を行う企業である。金属加工の中でも、特にステンレス加工に経営リソースを集中することで、競合他社との間で差別化を図り、新潟県内の顧客を中心に、着実に業績を伸ばしている。また、加工だけでなく自社ブランドのステンレス製品の製品開発といった新規事業にも着手している。
支援の流れ
【課題設定の「言語化」を通じた背中の後押し】
初回訪問時、社長に対して伴走支援の特徴や流れについて説明したところ、課題設定や解決時におけるコンサルタントの専門性等について質問がいくつかあったものの、担当コンサル一人ではなくチームとして組織的に支援に臨んでいること、技術的な課題については外部機関の活用可能性もあることなどを説明し、社長からも理解を得られ、支援の申込みに至った。
当社の社長は21歳で入社し、一度退社したものの、23歳に再入社し現場仕事に従事、28歳時に先代から事業承継した2代目社長である。事業承継以降、経理や営業など手探りで進めてきたとこと、また、承継後15年程度経過していることから次世代への承継を検討していきたいといった点もお話し頂いた。打ち合わせの途中、取引先の方が訪れ、社長が対応する場面を見させていただいたが、接し方が丁寧かつそつがない印象で、社長の人柄の良さを窺い知ることができた。
課題設定に向けたインタビューでは、次世代のリーダーを育てるという目標の下、月1で経営会議を立ち上げたこと、生産工程や納期管理などがホワイトボードや紙でのアナログ管理になっていること、不良品の再発防止や生産工程での連携などに課題を感じていること、新開発製品のマーケティング戦略策定のやり方に悩んでいることなど、社長からは率直にご自身の課題認識について回答を頂くことができた。
一方、社内でのコミュニケーション状況について水を向けたところ、「そこはいろいろと難しくて…」と、社長が言葉を濁された点は気になるところであった。初回のインタビューであったため、その時点ではこの話題には深くは立ち入らず、課題仮説として持った上でヒアリングを進めていった。
社長だけでなく、周囲の幹部へのヒアリングも行った結果、当社の課題認識については、社長・幹部陣ともおおむね共通の認識を有しているようであった。
当社の強みとして、「ひとつのモノを集中して仕上げる力に長けていること」が挙げられる一方で、後継者の人材育成、採用、社内のコミュニケーション、生産管理業務の見直し、生産管理業務領域におけるIT活用(現状はホワイトボードに手書きで運用)、のりしろをもった製造工程間連携、不良品再発防止対策(情報共有が不十分)、工場内の安全確保対策が不十分、3S活動におけるチェック機能が不十分、新開発製品のマーケティング戦略策定のやり方がわからない、過去からの慣例で回収条件が長く設定されている取引先があり、資金繰りへの影響懸念があるといった問題認識が共有された。
こうした問題意識を「経営全般」「組織・人事」「運営管理」「マーケティング」「財務」等、いくつかの階層に分けて構造化し、各課題の優先度や緊急性について社長と協議を行った。結果として、9つの課題が設定され、うち5つは「運営管理・情報システム」に起因するものとなったが、この点について社長から「もっと早く着手すべきだったが、遅ればせながらITベンダーから提案をしてもらう活動を開始した」との発言があった。もともと、社長の中でも課題とその要因については薄々認識を持たれつつも、それまでは本腰を入れて取り組むに至れていなかったところ、支援チームによって、明確に課題として言語化されたことで、背中を押す一助になったのではないかと思料された。
【「社内コミュニケーション」に対する悩みと、支援チームとしての後押し】
整理された課題のうち、どこから優先的に手を付けていくか。当初、会社側から支援チームに対して要望があったのは、①会社としての結果目標・活動目標の設定と個人目標との紐づけ、②求職者向けのコンテンツ見直しの2点だった。
求職者にとって魅力あるコンテンツを作るだけでなく、実際に入社した人が長く働いていけるような社内の教育や体制も整えていかなければいけない。課題の取組方針について会社とディスカッションを進める中で、ミーティングに出席していた製造部長から、このような発言が出てきた。
「実は、不良品発生対策が、個人への非難に繋がっている。今月も離職者が出てしまった」
初回のインタビューで、社内のコミュニケーションについて言葉が鈍かったのは、このあたりに要因があったのではないか。当初のテーマとしては会社の目標設定が挙げられたものの、より本質的な課題としては、不良品防止を属人的な非難に繋がらないようしっかりと仕組みとして根付かせること、また、それを通じて社内のコミュニケーションの円滑化や離職の防止に繋げていく点にあるのではないかと考えられた。
「不良品発生対策を検討する際には、その狙いが個人攻撃ではなく、取引先に迷惑をかけないための品質担保を行うことが主たる目的であることをしっかりと出席メンバー間で共有し、進行役が議論を交通整理していくことが重要です。支援チームもミーティングに参加させていただき、ご一緒に対応策を検討していくのはいかがでしょうか?」
当社との改めての協議の結果、当初の取組内容から一部修正し、テーマ①を「情報共有の仕組みを中心とした不良品防止策の見直し」として、課題解決支援を進めていくこととなった。
【もっとペースを上げてほしい」というリクエスト】
テーマ①については、製造部の中堅社員をプロジェクトリーダーとして、社長及び工場長も参加するプロジェクトチームを組成し、取組に臨んだ。まずは不良品率に関して、現状の実績を確認するとともに、今後どの頻度で、どこまでのデータを集計していくかを確認した。また、それを踏まえた情報共有の手段として有効と考えられるグループウェアやデータベースアプリケーション等について、支援チームから紹介・説明を行った。印象的だったのは、現状を踏まえた定量的な目標として、「受注件数に対する不良品率5%」という定量目標がプロジェクトチーム側より出てきた点である。課題に対する企業の本気度を感じる場面だった。
議論を重ねる中で、まずは情報共有のシステムを支援期間中に導入することを決定し、並行して、要因分析と打ち手について、社内の会議体(リーダーミーティング)の中で検討していくこととしたが、支援の過程で、システムから得られた情報を再発防止に繋げていくためには、情報共有・防止対策検討までの標準フローも新たに必要だということになり、標準フロー策定も同時並行的に進めていくこととなった。
支援開始当初よりもカバー範囲が広がる中で、支援チームとしては、プロジェクトリーダーに過度な負担がかかっているのではないかと若干懸念していたが、蓋を開けてみると、杞憂であったようだった。むしろ、「自分の性格的に短期集中型が合っている。もっと訪問サイクルを短くしてもらっても構わない」という発言がプロジェクトリーダーから出てきたのは、支援チームにとって嬉しい驚きだった。
【プロジェクトを「自分事化」させる】
テーマ②の求人コンテンツ見直しについても、同じくプロジェクトチームを組成して検討を進めていったが、当初、プロジェクトメンバーの温度感にはやや差があった。
「コンテンツを直しても、誰も見てくれなかったら意味ないですよね?」
ある時、プロジェクトのメンバーの一人から飛び出した言葉である。プロジェクトメンバーが、この取組の意義や必要性について十分に腹落ち出来ず、懐疑的なままでは、プロジェクトの推進は難しい。どのように自分事として捉えてもらえるかがポイントであった。
「例えば、皆さん自身にとっての入社の決め手は何だったのでしょうか?」
ディスカッションの中で、支援チームからこのような発言をメンバーに振ってみた。すると、プロジェクトメンバーからこのようなエピソードが出てきた。
そのメンバーは、ガソリンスタンド勤務を経て当社に入社した経歴を持っていたが、ある時、そのガソリンスタンドに、当社の製品を積んだトラックが給油に寄った。そのトラックの荷台に乗った当社のステンレス製品に「きれいだ!」と感銘を受けたことが、入社を考えたきっかけだったという。非常に印象深いエピソードだった。
「皆さん自身が入社した際、何かしら当社に入りたいと思わせた『決め手』があったはずです。それが何であったか、また、それをどう魅力ある形で見せていけばよいかを軸に考えていけばよいのではないでしょうか」
メンバー自身の経験に訴えかけることで、メンバーの中でプロジェクトを「自分事化」させていった。少しずつ、会議の中でのメンバーの発言も増えてくるようになった。
伴走支援の効果
約1年半の支援を通じて、不良品防止策については管理・情報共有システムの導入と、システムを活用するための業務フローと運用ルールの策定を行い、採用コンテンツについては求職者向けのコンテンツ作成までが行われた。
不良品発生防止プロジェクトについては、支援終了後も、5%以下の目標を達成し続けている。また、不具合発生時の対応フローを活用し、新たにISO9001の取得に至った。また、不良品が出たときのフローが確定したことにより、コミュニケーションが増え、従業員らの報告の際も、要点を伝える力が付いたという定性的な効果も生まれている。
採用コンテンツについても、見直す前は年間で1件か2件の問い合わせ程度であった中で、3月に採用コンテンツを見直しして以降、計7件の問い合わせが得られ、その後、実際に3人の採用に繋がっている(製造現場2名、Web管理者1名、いずれも女性)。
プロジェクト終了後、社長からは「プロジェクトの中心で活動したメンバーが絶対的に変わった。チームに参画した工場長も、いちプレイヤーから、自立的に動ける経営者の目線になった。支援は終了したが、取り組みはまだ終わっていない。改善の積み重ねが大事であることをこの支援を通じて学んだ」といった発言があった。プロジェクト推進を通じたメンバーの成長や視座引き上げも、本支援を通じて成し遂げられた成果の一つといえる。
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