ここから本文です。

〜ミドルマネジメントを巻き込み課題設定。部門間コミュニケーション強化〜

藤次郎株式会社(新潟県燕市 金属加工業 従業員数100名 資本金1,100万円)

社長やミドルマネジメントからのインタビューを通して、営業と製造のコミュニケーションに課題があることが支援の早期段階で浮かび上がってきた。各部門のミドルマネジメントを巻き込み、部門の垣根を超えた議論を続け、ITツールの導入や、生産計画・工程の見える化、在庫・受注管理の仕組み構築を参加者全員の合意のうえ課題に設定し、課題解決に進むこととなった。支援チームは、ファシリテーター役となった常務を始め、苦悩しながらも課題解決に臨むチームへのサポートに徹した。その結果、ミドルマネジメント層のリーダーとしての自覚等成長が見られ、問題であったコミュニケーションも改善し、課題解決を実現させていくことができた。リーダーの成長の重要性に気づきを得た社長はリーダー育成を加速し、その効果が現場の積極性として現れるようになっている。支援終了後に業績が向上するなど、定量的な成果も出ており、伴走支援をきっかけに自走化に繋がった事例である


本事例のポイント

【支援プロセス全体を通じて信頼関係を構築】
会食や忘年会を共にすることでカジュアルな接触機会を得たこと、インタビュー等から得られた社内の問題点等を社長にフィードバックすることで、社長に気づきを与えていくこと、課題解決フェーズにおいても社長と1対1で話す時間を毎回取るようにしたことなど、支援プロセスを通じて、社長との信頼構築を築いていった。

【早期からミドルマネジメントを巻き込み課題設定】
部門間の垣根を超えて経営視点での議論をすることにより、ミドルマネジメントの視座を一段階引き上げた。これにより、会社を良くしていくためにどうしたら良いかを一緒に考えることでベクトルを揃える効果があったほか、個々の施策ごとにコミュニケーションツールやルール、仕組みを整えることで、部門間のコミュニケーションの改善を果たすことができた。

当社の背景

当社は1953年に創業した包丁・調理用品の製造販売事業を営む企業である。自社オリジナルブランドでの包丁を展開しており過去に数々の賞を受賞している。また、近年、オープンファクトリーを開設し年間一万人にも及ぶ来訪者があるなど、収益獲得につなげている。国内外から多数の受注があり売上は伸び続けていたが、需要に供給が追いついておらず、顧客ニーズを収集できても新商品開発の余力がない状況であった。

支援の流れ

【社長の気づいていない課題を発掘】
社長の第一印象は営業畑を歩んでこられた方らしく、気さくな感じの方で伴走支援でのコミュニケーションは取りやすそうな印象であった。一方でどこか企業の良いところのみを語っているような印象もあったため、企業の課題を相談してもらうためには懐に入っていく必要性も感じた。幸いなことに、支援開始時はコロナ禍前であったため、会食や忘年会を共にすることで関係性を構築することができた。コロナ禍を経た今だからこそ、カジュアルな接触機会の大事さを痛感している。
社長やミドルマネジメントからのインタビューを通して、営業と製造のコミュニケーションに課題があることが浮かび上がってきた。これは営業と製造がロケーション的に離れた場所にあることから日頃のコミュニケーションが少ないことに加えて、営業部門の方が営業畑出身の社長の威を借りることでパワーバランスが崩れていることも要因として見て取れた。製造部からは「営業部が持ってくる案件について本当にニーズがあるのか気になる」、営業部からは、「ニーズなんて製造部門が気にする必要がない、俺たちがとってきた案件を一定品質で作って収めることに集中してくれればいい。ニーズ云々の余計な口を出すな」といった具合で良好な関係性とは言い難い状況であった。
社長に営業と製造でコミュニケーションが円滑に行われていないことをフィードバックすると「そうなのか。知らなかった」という反応であった。こういった社長の気が付いていない課題をインタビューで発見することは伴走支援の効果の一つであるとともに、社長との信頼関係構築にもつながるものと感じている。

【ミドルマネジメントを巻き込んで課題設定】
通常、課題設定については従業員インタビューを通して課題を整理し、社長へ報告するとともに優先順位を社長とひざ詰めで協議をしていくような進め方をすることが多い。しかしながら、本件においては比較的初期の段階で部門間のコミュニケーションに問題が見つかったため、各部門長を巻き込んで課題を協議することにした。社長から「自分が入らない方が皆から意見が出るんだね。だったら入らない方が良いかな」と相談があった。これはこれで良い気づきであるものの、今回に関しては社長も気が付いていなかった課題であり、コミュニケーションというはっきりとした答えのない課題であるため入ってもらうようにお願いした。
また、次世代の育成という点からも当社での経歴は浅いが社長の息子もメンバーに加えたいと社長から提案があった。最初、社長の息子は中々発言をすることが出来ずにいたようであるが、もう一人同年代の社員も参加していたこともあり徐々に発言が増えていった。次世代の育成という点においては非常に有効な場となったようであった。
ミドルマネジメントを巻き込んだ後も、社長と1対1でフィードバックをする時間を取るようにした。信頼関係構築においては接触頻度というのは重要なファクターであり、意図的に接触機会を作ることを意識した。
会議の場では、最初こそ参加者からの発言が見られなかったものの、支援チームから指名して発言を促すことで少しずつ意見が出るようになっていった。次第にヒートアップしていき部門間で口論になりかける一幕も見られたが、部門間の垣根を超えたひざ詰めでの会議の回を重ねるごとに徐々に参加者のベクトルが揃ってきたように思える。社長からも「ここまで踏み込んだ議論をしたのは初めてであり有意義だった」とコメントをいただけた。毎回の会議後に各部門長の考える課題の優先順位をすり合わせていくことで、参加者全員が納得したうえで情報共有ルールや管理の仕組を対応していくことが決まった。

【常務の苦悩、ファシリテーションをサポート】
課題解決に向けての議論は製造部門の常務にファシリテーションをお願いして進めることとなった。会議の場を回す経験がこれまで少なかったのか、最初数回は参加者からの発言があるたびに支援チームの方を向いてどうしたら良いか不安そうな表情をされていた。「胸を張って皆さんに意見を求めれば大丈夫です。自身が話そうと思わなくて大丈夫ですよ。」というアドバイスをして以降、様々な苦悩をされながらも徐々にファシリテーションが上達していく様子が印象的であった。
引き続きミドルマネジメントを巻き込んだチームで部門の垣根を越えて議論を行い、営業と製造の情報連携ツールとしてITツールの導入や、生産計画工程の見える化、在庫・受注管理の仕組み構築に至った。

伴走支援の効果

伴走支援中にミドルマネジメントによる部門の垣根を超えたひざ詰めの議論とITツールを導入して情報共有の仕組み化を図り、営業・製造間の連携強化を図ったことにより、最大の課題であった営業と製造部門のコミュニケーションは大きく改善した。部門間コミュニケーションに関連する形で生産計画の見える化や在庫・受注管理の仕組みもルール化できたことによって、適切なタイミングで販売するべき商品の選定等、効率的な営業戦略を取ることが可能となった。生産部門では営業戦略を把握することで、適切な人員配置と工程管理を推進。海外需要(多品種)にも対応できる生産体制の構築につながった。支援後には定量面での成果も捉えられようになった。支援開始から2年後に売上は15%増、営業利益は34%増、海外販売の売上全体に占める割合は1割アップした。
また、社長からも「プロジェクトに入ったメンバーはリーダーの自覚が出た」、「知らない一面を知ることが出来た」とメンバーの成長を実感するコメントも頂いており、伴走支援での気づきを活かすべく支援後はリーダー教育に力を入れているようである。それらの具体的な成果として、企画募集をすると現場からアイデアが出てくるようになり、イベントの運営やSNSの発信など現場主体での行動が目立つようになってきた。企業の本質的な課題を解決するとともに、現場へも効果が波及し自走化が進んだ事例だと言えよう。

コンテンツフィルタの内容が入ります。