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〜後継者中心で中期経営計画策定。次期経営体制の構築〜

三友製作所株式会社(茨城県日立市 電子機器製造 従業員210名 資本金4,500万円)

従業員ヒアリングにより明らかになった課題である工場間の連携強化、次期経営体制の構築に対応するため、後継者である経営企画室長(経営者の長女)を中心とした、次期経営チームを結成し中期経営計画を策定することとした。支援チームは、経営企画室長の経営力の育成も念頭におきつつ、次期経営チームの取組を伴走で支援。部門の垣根を超えた情報連携や経営企画室長のリーダーシップが徐々に発揮され、中期経営計画策定に至った。経営企画室長のリーダーとしての成長だけでなく、次期経営チームに参画した部長陣の経営的視点の獲得により次期経営体制の構築につなげることができた。


本事例のポイント

【信頼関係の構築】
経営者との対話と傾聴において「共感」を示すため、入念な事前準備により会社の歴史、過去の経営危機のことや各種データをインプットした。あいづちを打つだけの単なる共感ではなく、「一歩踏み込んだ共感」を見せることで、社長との信頼関係が築けた。これが支援振り返り時の社長からの「徐々に話しやすくなった、言い辛いことも話せるようになった。」とのコメントにもつながった。

【黒子に徹して企業主体で考える】
経営企画室長に対して支援者は、「答えを出しません」というスタンスで黒子に徹してサポートした。現場への理解不足やリーダーシップに不安を抱かれていた経営企画室長が主体的に動いてチームを牽引し、具体的な成果を出していった。このプロセスを通じて経営企画室長は次世代のリーダーとして劇的な成長を遂げ、またチームのメンバーであった部長陣の成長にもつながった。

当社の背景

当社は医療用分析機器関連製品の製造を営む企業である。現社長の手腕で外部環境の変化に合わせた事業入れ替えをしながら発展してきた。支援前3年は売上横ばいであるものの、10年前に比べて売上規模は3倍となっている。地場有力企業の協力会社として設計、加工、組み立てまで自社で担うだけではなく、自社製品の開発も行っているが、売上の95%が地場有力企業に対する売上であり、残りの5%が自社製品の売上である。社長の想いとしては将来的に自社製品の売上を30%まで持っていきたいという想いがあるものの、ロードマップは描けずにいた。後継者である経営企画室長をはじめ、部長職の8名のうち、6名が40代と次世代の人材が充実している。

支援の流れ

【コロナ禍での支援開始、従来と異なる信頼関係構築】
当社の支援は開始直後にコロナ禍に突入したため、従来の支援とは異なる点も多々あった。従来であれば、支援開始初期にランチミーティングなどで、公式な場では引き出せない本音を引き出すようにしていたが、本件ではその手法を取ることができなかった。そのため通常以上に対話を重ね、共感しながら話を聞くことを意識した。共感しながら聞くと文字にしてしまえば当たり前のことではあるが、単純に「そうですよね」というあいづちを打つことにとどまらず、入念な事前準備をおこない会社の歴史、過去の経営危機等、各種データをインプットしておくことで、社長に「当社のこと良く知ってくれているじゃないか、当社に関心をもってくれている」と思わせる「一歩踏み込んだ共感」をすることを意識した。
支援終了後に社長とお話しした際に、当時のことを聞いてみたが、「最初はこんなことまで聞かれるのかと思い中々素直に答えられなかったが、共感して聞いてくれることから徐々に話をしやすくなった。言いづらいことも言わないと何の解決にもつながらないという考えに至り何でも話せるようになった。」というような言葉をいただいた。意識をして取り組んだ「一歩踏み込んだ共感」は確かに社長の心を掴んでいたようである。

【社長からは見えていなかった本質的課題の抽出】
従業員ヒアリングを行うと、社長が考えている社内状況とは異なる状況が見えてきた。1点目は工場間の連携である。第1工場では加工、第2工場では組立、第3工場では開発を行っているがそれぞれの連携が取れておらず、独自に業務を行っている実態が見えてきた。例えば、第3工場で開発した自社製品について、第1工場、第2工場ではどのような製品かを知らなかったり、第1工場で加工する際に、第2工場での組み立て工程も意識した加工をしていなかったりという点から工場間連携に課題を感じた。この点に関して社長は当然現場では連携が取れていると考えていたため、ヒアリング結果をお伝えしたときは驚いていた。
また、経営企画室長を後継者とすることを社内で明示しているため、現場でもそのように受け入れられていると考えていたが、実態としては現場からはリーダーシップや現場に対する理解について不足が懸念されており、このまま会社を引き継がれるとしたら心配であるという声が上がっていた。
こうしたことから「工場間の連携強化、次期経営体制の構築」の2つを本質的課題として捉えて支援を行っていくこととなった。

【企業と共に考えて取組課題設定】
具体的な取組課題としては、経営企画室長と次世代を担う40代の部長6名で次期経営チームを組んで中期経営計画を立てることとした。この取組の中で経営企画室長の経営力の育成を始めとする次期経営体制構築と工場間の連携強化を図っていくこととした。この取組案は社長と取組課題についての議論を進めていく中で社長側から提案のあったものであり、企業側で自ら考えていただいた内容であったため、その後の取組もスムーズに進めることができた。課題への腹落ち感醸成のためには、企業主体で考えていただき、実践に移すということが重要であることを改めて感じた。

【経営企画室長の苦労と成長】
中期経営計画を策定するにあたり、次期経営チームのビジョンを策定し、具体的な施策やアクションプランへの落とし込みを行った。中期経営計画を策定する際は様々な施策を検討することになるため、論点がぼやけてしまうことが往々にしてある。それを防ぐためにもビジョンを明確化して検討の軸を作ることが大事であることを経営企画室長へ伝えた。この時、概念的な目標ではなく、具体的な数値目標として各年度に落とし込めるもの、実現性も考慮に入れたビジョン策定が重要であることも意識して進めてもらった。
実際、自社製品の売上割合30%という会社目標について以前から共有されていたが、時期や達成するための施策などは明示されていなかったため、次期経営チームのビジョンとして自社製品の売上割合30%を設定することに関する是非、実現可能性はあるのかといった話から進めていった。
次期経営チームの中でも実現可能性について意見が割れ、「自社製品売上30%なんて無理だ」という意見も出て紛糾する一面も見られたが、経営企画室長の熱い想いがチームを牽引し協議が続けられた。部署間で共有ができていなかった新規開発見込を1つずつ積み上げて行くことで実現可能性を見出し、最終的に次期経営チームの総意として自社製品売上30%をビジョンとして掲げるに至った。
次期経営チームにより中期経営計画策定がキックオフしてから完成するまで、2週間に1度の頻度で支援者も入って会議、その間に会社内部での会議、合間合間に経営企画室長と支援者間で次回打ち合わせの進め方のすり合わせを行うという形で進行していったため、経営企画室長は多忙を極めていたことと思う。次期経営体制の構築が本質的な課題の一つであったため「支援者側からは答えを出しません」というスタンスで黒子に徹してサポートし、毎回の2時間の会議でヘトヘトになるまで次期経営チームで考えることを繰り返してもらった。こういった短期間ではあったが濃厚な期間を経ることで、経営企画室長は劇的な成長を遂げたと感じる。次期経営チームの中で「私はこういう風に考えているが、あなたはどう思うか?」と言ったようにリーダーシップを発揮する姿が目立つようになったことに加え、議論を引っ張るために現場へ頻繁に足を運んだため現場の動き方にも詳しくなった。こうした変化は次期経営チームに参画している部長たちも目に見えて感じる点があったのか、頼れるリーダーとしての信頼を獲得していった様子が見て取れた。
また、社長から見て部長たちも「これまでは他の部門のことには首をつっこまなかったが、会社としてこうした方が良いのではないかという風に提案しあうようになった。会社全体を見て経営的に考える力が付いたと感じる。」と伴走支援を通した成長を実感いただいたようである。

伴走支援の効果

本支援の中で、中期経営計画を策定することを通し、本質的な課題として捉えられた、工場間の連携強化、次期経営体制の構築を行うことができた。
また、支援終了してから1年後にフォロー訪問をした際に、中期経営計画一年目はアクションプランを盛り込みすぎてしまっていたため未達の項目が多かったことを伺った。そのため2年目についてはアクションプランの見直しを行う予定であることを伺った。これは年に3回、次期経営チームでアクションプランについて進捗の確認をする仕組みを導入したことによってPDCAサイクルが機能していることを表していた。
更に、直近で経営企画室長にお会いした際、次回の中期経営計画策定時期も近づいているが、次回は次期経営チームだけでもより良い中期経営計画を策定する自信を覗かせており、頼もしさを感じると共に計画策定ノウハウについても会社側に残せたことを確認できた。

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