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〜創業社長の決断。取締役(長女)主体の取組により組織強化~
株式会社ティー・エム・ピー (茨城県日立市 機械製造業 従業員数38名 資本金5,000万円)
現社長は創業以来、自身で営業から開発、製造まで全てをこなし、一代で当社をここまで築きあげた。公的な支援もこれまで利用されてきたが、専門家が型にはめるような言い方をすることに嫌気を感じることもあった。そのため、社長との信頼関係の構築に相当な時間をかけるとともに、従業員ヒアリング等を通じて本質的な課題として設定された人材育成がスムーズに実行できる環境の構築に向け、社長の長女である人事・総務担当の取締役に伴走して支援することとした。これまで力のある創業社長が会社をリードしてきたが、従業員主体の取組により従業員の成長、組織の強化・活性化を果たすことができ、新たな取組にもつながった事例である。本事例のポイント
【信頼関係の構築】
公的な支援に良いイメージを持っていなかった社長との信頼関係を築くため、課題設定の段階に1年間もの時間をかけた。その過程では、社長の意見に対する反論・否定的なコメントは避け、傾聴することを心掛けた。人事制度の話が多かったため、支援チームに人事面に詳しいメンバーを加え、状況に応じて専門性の高い助言を行いつつ、スモールステップで着実にサポートした。「常にこちらも汗をかいて一緒に実現する」というスタンスで取り組んだことが社長や取締役との信頼関係の構築につながった。
【押し付けるのではなく、一緒に考える】
課題解決に取り組む取締役から「現場経験がないため社員に反発されないか心配」と相談を受けた。支援チームは、「押し付けるのではなく、現場の人を巻き込んで一緒に考えて制度設計したらどうか」というアドバイスをした。これは伴走支援の考え方においても同様であるが、課題へ腹落ちして行動に移していただくには、一緒に考えてもらうことが重要である。
当社の背景
当社は現社長が創業したファクトリーオートメーション設備の企画・製造を行う企業である。自社の技術を生かしたオリジナル製品を製造、販売しており、地域の大手企業に依存しない経営体質を持つ点が強みである。社長は当社を一代で築いてきたが、次世代の人材育成が課題であることを認識している。長女が人事・総務を担当する取締役として社長を支えている。
支援の流れ
【じっくり時間をかけて信頼関係を構築】
最初の訪問時に伴走支援の趣旨説明を行ったが、この時の社長の反応が印象的であった。「これまでの支援は型にはめるような支援だった。本件も同じではないか」という手厳しいコメントが返ってきたため面食らった。以前、公的支援を受けた際にはあまり成果が出なかったため、従来の支援と同様であれば断るつもりであったらしい。「型に押し込もうなんて思っていません。企業の持っている独創的な部分を活かして成長に繋げていくことが趣旨です」という話をしたところ、これまでの支援との違いを理解いただくことができ、支援の申し込みに至った。
最初の訪問時の言葉もあったため、社長との信頼関係の構築にはじっくり時間をかけるべきだと考えた。課題設定フェーズで従業員からのヒアリングを行い、整理して社長へ報告する形で進めることにした。取組課題に腹落ちしていただくまで約1年間もの歳月を使って対話を続けた。特に気を付けた点としては社長とのコミュニケーションでは反論・否定的なコメントをしないようにし、傾聴することを意識した。そうすることで、最初の訪問時に説明した通り、企業に寄り添って成長をサポートするパートナーとして認めてもらえた。
【課題に向き合うために社長と取締役で話し合い】
ヒアリング結果から課題への気づきを得ていただくために、ヒアリングから抽出した従業員のコメントは極力そのままお伝えするようにした。特に印象的だったのは従業員によっては「給料は変わらないのに自分だけ重い仕事になっている」というような不平不満がでていることをお伝えしたときに、「そんなことを言っている奴がいるのか・・・」と危機感を持たれた様子であった。取締役には事前にお伝えしてあり、日ごろから課題を感じている様子であったため社長と取締役で話し合うように促した。こうしたプロセスを踏んだことにより腹落ちして取り組んでいただけたものと考える。結果として人事制度の構築が取組課題として設定された。
【課題解決チームの編成】
課題解決に当たり、まず行ったのが課題解決チームの編成である。支援チームは「今回の取組は社長以外の社員の方にリードしてもらいましょう」と提案した。一代で会社を発展させてきた社長であるため、社長の力は非常に大きい。そのため会社の重要課題を部下に任せるというようなことは、これまでしてこなかったものと思われた。任せることで社員の成長を促すことになり、強固な組織体制を築くという狙いを説明したところ、一瞬少し心配そうな表情を見せたものの、最終的には快諾をいただけた。今回任せてみたことで、これまで社長自身があまり関与してこなかった部分にもアプローチすることができ、多角的に会社を強化していけるという気づきを得た様子であった。
【寄り添った課題解決】
人事制度の構築については取締役と総務部の担当者が中心となって取り組んだ。取締役としても初めての経験であるため、いったい何から手を付ければいいか困っている様子であった。人事制度に詳しい支援チームのメンバーが基本となる考え方やフレームワークをお伝えし、次回までに自社に合った形にアレンジしてもらうといった形で一歩一歩進めていくこととした。
初めての取組であることから不安でいっぱいであることは目に見えて分かったので、小さい悩み事も気楽に聞けるような雰囲気づくりには注意した。お会いする度に「こんなことは聞いてはいけないとか思わないでくださいね」というような声がけをするようにした。
そんな中、製造現場の経験がない取締役から「現場のことは分からないので社員に反発されないか怖い」と相談を受けた。「押し付けるのではなく、現場の人を巻き込んで一緒に考えて制度設計したらどうか」というアドバイスをした。これは伴走支援をする際に自身も気を付けていることの一つである。結果として現場にもアイデアをもらいつつ、大きな反発もなく進めることができた様子であった。また、取締役の中で現場とのコミュニケーション方法という点でも気づきになったようで、伴走支援後の取組にも活きたようであった。
伴走支援の効果
伴走支援自体は人事制度が完成する前に終了となり、残りのステップは企業自ら取り組むこととなった。人事制度が完成するまで支援を継続した方がいいのではとも考えられたが、社長から「まずは自分たちでできるところまでやってみたい」という言葉があった。この時の取締役の不安そうな顔が印象的であった。別れ際に取締役に声をかけたところ「ここまで支援していただいたら、後は自分たちでやりきらなければと思っています。」と仰っていて、取締役の中で覚悟が決まった瞬間であったように感じる。
フォローアップのため半年ぶりに訪問した際に、完成した人事制度の報告を受け、本当に自社内で仕上げきったことに驚いた。伴走支援が目指す自走化によって人事制度の完成にこぎつけたものと考えている。
また、今回の取組の経験が次の取組にも活かされていた。物理的に離れた工場同士のコミュニケーションを改善するために取締役主導でコミュニケーションツールを導入したそうだが、現場とのコミュニケーションの方法が活かされ、現場と一緒に考えながら導入することができたとのことであった。さらに、人事制度の導入の延長線上の取組として課長職以上向けの外部研修を取り入れることで、リーダー層の意識改革が進んでいるとのことである。
伴走支援をきっかけに従業員が主体となって新たなプロジェクトに取り組んでいく体制が整ってきていることに達成感を感じつつ、今後の更なる発展を期待している。
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