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〜スーパーマンからの脱却。社員に任せることで意識変革へ〜
株式会社エステーリンク (新潟県燕市、板金加工・加工機製造、従業員数85人、資本金1000万円)
本支援では、「経営者(当時は後継者である常務、現在の社長)が材料輸入業務から、工場内の進捗管理まで何でもやっているスーパーマンであること」を本質的な課題と捉え、伴走支援を通して社員に任せながらチームとして進めることで、経営者に成功体験を積んでもらい、意識変容につなげることを狙いとした。具体的な取組として、当社の重要経営課題であった新工場設立について、社内にプロジェクトチームを立ち上げて工場レイアウトの検討等を行った。顧客が工場見学に来た際に心を掴めるような「魅せる工場」や5S、作業動線等、生産性も意識した取組を支援チームでもサポートした。結果として、工場の設立のみに留まらず、その後の取組として持続的なカイゼン活動等につなげることができた。また、経営者からは、「この支援をきっかけに自分自身が変われた、今はリーダー層に任せることができるようになり、リーダー達の成長が見られる」とのコメントが寄せられた事例である。本事例のポイント
【信頼関係の構築】
本支援における信頼構築は、会社の重要経営課題であった新工場設立におけるノウハウを支援チームが持っていたことが大きい。支援の振り返りの際、経営者からも「支援者の専門性の高さ、提案力に納得感を持てた」とのコメントがあった。また、工場の担当者には平易な言葉でコミュニケーションを取ることや、経営者に対しては「当地域内で一番」といった興味を引き付ける提案を行うなど、相手の目線と合わせたコミュニケーション方法が信頼構築に寄与したものと考える。
【支援を通して徐々に腹落ちした言葉】
経営者にかけた「スーパーマン」という言葉は当初本人には刺さっていなかったように思える。一方で支援から数年たった振り返りの時点で、「この言葉をきっかけに自分は変わることができた」というコメントをいただいている。これは伴走支援を通して、社員に任せながらプロジェクトを進めることで成功体験を積んでもらうことから生まれた「意識変革」という大きな成果となった。意識変革は急に起こるのではなく、成功体験などを通してゆっくりと腹落ちしていくものだということに改めて気づかされた。
当社の背景
当社は1973年創業の板金加工・加工機設計・製造を営む会社である。同社の開発したフラップ式バリ取り研磨機は国内シェア50%を誇り、同製品が牽引し売上・利益は増加基調にあった。支援開始後に現社長が就任したものの、先代社長が現場を退かれていたこともあり支援開始時から現社長(当時は常務、先代社長の子息)が実質的なトップとして牽引されていた。本事例では簡略化のために以降、現社長を「社長」と記載する。
支援の流れ
【本質的課題は「社長がスーパーマン」】
最初の訪問時、社長へ伴走支援の説明をさせていただくと、「一時的に負担はかかるけど、勉強になる」という想いから伴走支援へ申し込みをいただいた。本支援では社長、社長の弟の取締役、社長の母の専務が支援チームのカウンターパートとして対応いただけた。支援の冒頭に経営層の3名からお話を伺った中で、社長が材料輸入業務から、工場内の進捗管理まで何でもやっているスーパーマンであることが気になった。成長著しい当社は当時、従業員が70名程度まで成長しており社長一人で会社を見るには大きすぎる規模になりつつあった。そのことから、「中枢の人がスーパーマンではダメだ」という言葉をかけた。後述する具体的な取組課題解決を通して、部下に任せながらチームで動き、成功体験を積んでもらうことで社長の意識変革を促すことを本支援最大の狙いとして定め支援していくこととなった。
【魅せる工場づくり】
社内で具体的に取り組む課題としては、「顧客へのアピールを狙いとした新工場の計画検討」を主なテーマに選定した。自社製品の販売フローとして、展示会で見込顧客と繋がった後に、工場見学を経て受注が決まることが多く、重要度の高い経営課題であると社長も認識をしていた。更に支援チーム内の一人が工場レイアウトに関する専門性を有している点において信頼を得ていたため、社長からも当課題をテーマとすることの期待が高かったように思う。
また、現場へのヒアリング時には、「会社の工場は綺麗だと思うか?」といったことを各従業員に聞いてみることにした。一見シンプルな質問であるが、現場の従業員と目線を合わせた言葉を使うことを意識して言葉を選んだ。「顧客訴求力があると思うか」というような質問を投げかけても、工場の人間にはピンと来ないことが多いため、相手に合わせた表現を心掛けることがコミュニケーションを図るうえで重要である。
そのような質問をしていく中で、新卒から当社に勤めている社員は「綺麗だ」、中途社員は「もっと綺麗にできる」といったような印象を持っていることが分かった。現場の社員間でも認識に差があり、5Sを始めとするカイゼン活動について現場で話し合うことが少ないことも課題として捉えられた。こうしたことから経営と現場が共に考え、魅せる工場にしていくとともに、5Sや作業動線も意識した生産性の高い工場レイアウトを検討していくことを本支援で対応する課題とした。
【工場レイアウトの検討】
工場レイアウトの検討について、会社側で経営層・現場がチームとなってレイアウトを検討いただき、支援チームとのミーティング時に発表いただく形で進行していった。最初に出てきたレイアウトは、至る所にクランクがあり煩雑なレイアウトであった。これでは作業動線が複雑化してしまい、生産性も落ちることから「道を作ってから家を作りましょう」という言葉をかけた。最終的に工場中央に「162mの弾丸道路を作る」ということに決まった。「当地域内一番の道路」というような表現をすれば、顧客へのアピールにもなることから、社長も大いに気に入ってくれた。
この他、「見通し確保のために機械の高さを140cmに統一する」、「仕掛品の量を計算に入れて置き場所を決める」等の助言をしては、企業に検討をいただくということを繰り返した。時にはレイアウトの検討が進まず、前回と全く同じレイアウトが出てきた際には「一度建ててしまえば簡単には修正はできない。企業側の想いを入れていかないと失敗する」といったような厳しい言葉をかけたこともあった。
こういったやり取りが続いていく中で徐々に企業側の熱量も上がっていったように思う。レイアウトは3D-CADを使用して作成いただいていたが、「レイアウトの議論をする時は、ボードと機械を模した磁石を使って配置を検討するとその場で動かすことができるため良い」というアドバイスをしたところ、次回のミーティングの時までに手作りで作ってきてくれた時は企業の本気度を感じた。こうして現場、経営層、支援チーム一体となって工場レイアウトが完成したところで支援は終了となった。
伴走支援の効果
支援が終了して数年が経った時点で当社を訪問し、支援の振り返りと現状確認を行った。工場だけではなく、事務所も新たに立て直しされており、洗練された印象の会社に生まれ変わっていた。「現在の形があるのは伴走支援のおかげ。建て替えに補助金を活用したが、そういった情報も伴走支援がなかったら見落としていた。」というコメントをいただいた。更に話を伺うと、「駐車場から荷物の出し入れをすることが多いので雪の季節は屋根があった方が良い」、「本当は2階に設置しようと思っていた部屋を、荷物を持って上り下りするのは大変だから1階に設置することにした」等、社長の母である専務の想いや気遣いが詰まった社屋となっていた。また、経営陣が支援当時から「社員みんなでコミュニケーションをとる場を作りたい」という想いも、3階にラウンジや屋上にBBQスペースを設置することで実現されていた。こういった点でも「レイアウトに想いを入れる」という助言の効果が間接的に出ていたのではないかと思う。専務については、時に支援チームと意見が衝突した社長・取締役を母としてうまく導いてくれるなど、本支援におけるキーパーソンであり、支援チームとしても感謝が尽きない。
社長と当時の振り返りをすると「中枢の人がスーパーマンではダメだ」という言葉をかけられたことが印象に強く残っている、それまではあまりメンバーに任せることができていなかったが、その言葉をきっかけに変われた。今はリーダー層に任せることができるようになり、その結果リーダー達の成長が見られる。」とコメントをいただけた。恐らく「スーパーマン」という言葉をかけた瞬間に気づきを得たのではなく、伴走支援を通して現場と共にチームとして検討を進めたことや、その後の取組を続けていく中で少しずつ腹落ちしていったのではないかと推測する。小さな成功体験を積むことの重要性を改めて感じた瞬間であった。
また、「162mの弾丸道路は見事にハマった。端から端まで見通すことができ圧巻である」、「工場の生産性も向上し生産キャパが拡大した」「ISO取得時に5S活動を目標に組み込むことでカイゼン活動を続けていく仕組みを作った」といったように、支援の成果や、その後の取組を聞くことができた。本質的課題として設定したスーパーマンからの脱却を果たし、現場と経営が協働して自走化する素晴らしい企業に生まれ変わったことを嬉しく思う。
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