ここから本文です。

〜会社自らで解決策を見出せるよう、相談役に徹する〜

株式会社 町井製作所(愛知県刈谷市 金属製品製造業 従業員数170名、資本金1千万円 売上35億円)

当社の後継者である専務(現社長の娘婿。トヨタ自動車から移籍)は多くの課題や悩みを抱えながらも、当社外の新しい相談相手がいないという状況であった。「理念や目標は裏を返せばそれらを達成できていない状況という課題を示すもの」だと専務は理解していたが、その課題を解決するために何をしたらよいかわからないということが悩みとなっていた。 そこで、支援者は専務が自ら解決策を見出しかつ実際の行動に繋げられるよう、専務の壁打ち相手に徹することで、専務そして当社に、自ら考え自ら実行できる思考プロセスを身に着けさせた事例である。


伴走支援の概略

当社の後継者である専務(現社長の娘婿。トヨタ自動車から移籍)は多くの課題や悩みを抱えながらも、当社外の新しい相談相手がいないという状況であった。「理念や目標は裏を返せばそれらを達成できていない状況という課題を示すもの」だと専務は理解していたが、その課題を解決するために何をしたらよいかわからないということが悩みとなっていた。
そこで、支援者は専務が自ら解決策を見出しかつ実際の行動に繋げられるよう、専務の壁打ち相手に徹することで、専務そして当社に、自ら考え自ら実行できる思考プロセスを身に着けさせた事例である。

本事例のポイント

【信頼関係の構築】
当社は伴走支援を活用する前に同支援者からものづくり補助金の申請にかかる支援を受けていたため、当社と支援者の人的関係性は既に存在していた。しかしその裏で、当社では、これまでコンサルタントを利用した経験はほとんどなく、何より、コンサルタントという職種に対するイメージとして、「とっつきにくい」、「仮に内情を話したとしても、プレスや自動車部品という専門技術に特化した課題までリーチできるか不明」、「数字目標ばかりを話す相手」といったネガティブな印象を持っていた。
一方、当社専務は高いカイゼン意識を持っており、自ら様々な取組に挑戦していたが、自身の考えを整理するための壁打ちが十分でないという悩みを持っていた。
そこで、支援者は、頻繁に会社を訪問することで専務の壁打ち相手になりつつ、精神的な距離を縮める対応をとることとした。また、支援者自身の提案はあくまでも参考として提示するだけにとどめ、当社の意思決定を強制することとならないように意識して対話を行った。結果、徐々に専務と打ち解けていき、専務自身や当社の抱える悩みを、支援者に赤裸々に打ち明けられるようになるまでの信頼関係が構築されていった。

【気づきを与える質問で本質的な課題を設定】
会社として問題意識のあった高い離職率や一部の従業員の協調性の低さという人材の悩みに対して、支援者は気づきを与える質問を繰り返す形で対話を重ね、社内の状況を改めて見直し、課題解決の糸口を得られるよう促していった。そのプロセスの結果、数字の裏に存在する本質的な課題を意識するようになり、人材育成のための定性的な課題が出てくるようになった。専務のこうした気づきから、退職要因の解消や人事評価制度、社内コミュケーション向上といった取組につながった。

当社の背景

当社は、自動車サプライチェーンの一翼を担っており、事業継続のためには、売上先の維持だけではなく、安定的な部材の確保を行うために仕入先の存続も極めて重要となっていた。
ある日、当社の理念や目標をホワイトボードに書き出す機会があったが、理念や目標は書けるのに、当該理念や目標を実現するための具体的な対応策については一切書き進めることができなかった。
その時、当社は具体的な対応策を書き進めることができなかったことに対する課題意識を持ち、ものづくり補助金申請支援といったスポット的な支援ではなく、長期的な支援こそが当社の課題解決には必要になると考え、伴走支援事業を活用することとなった。

支援の流れ

【支援先に寄り添い、支援先の悩みに耳を傾ける】
支援者はものづくり補助金の申請支援を通じ、当社と一定の関係性を既に有していたが、その中で、後継者である専務が、自身の考えを整理するための壁打ち作業が十分でないという悩みを持っていることを感じていた。そこで、支援者は2週間に1度は必ず当社に訪問し、対話と傾聴を駆使し、専務の壁打ち相手となることとした。
最初の訪問時に概況説明や決算書を確認、また、経営理念を確認しながら、当社として考える課題、また専務が抱えている悩みを対話の中で引き出していった。結果、当社では仕入先の経営状況に対する懸念があり、加えて、高い離職率や社内コミュニケーション不足による従業員の協調性の低さという人材の悩みを有していることが分かった。また、会社としての業績目標を数字上は立案してはいたものの、課題解決や業績目標を達成するための具体の対応策についてアイデアが出ないという悩みを専務自身が抱えているということを支援者は感じていた。

【支援先の悩みから課題を識別し、解決に導く】
当社として仕入先の経営状況や人材に対する悩みをかかえ、また専務としては具体の対応策のアイデアがでてこないという状況にあった。そこで、まず、仕入先の経営状況に対しては、経営先の経営改善が課題であると考え、愛知県で行われている経営改善計画策定支援事業を仕入先に紹介する対応をとり、仕入先の経営改善を促した。
次に、当社人材については、社内システムが有効に機能していない課題があると考え、なぜ従業員が離職するのか、なぜ社内コミュニケーションが不足しているのかを専務と共に検討していった。具体的には、たとえば求人票は求職者がどのように受け止めるかを考えて作れているか、離職者が離職する前の兆候を把握できているか、従業員への面談の方法や内容は目的を想定したものとなっているか、社内の会議体ではどのようなことを話しているか、といった気づきを与える質問を繰り返すことで、現在の社内の状況を改めて見直すと共に、かつ課題解決の糸口を得られるよう促していった。
こうした人材に関する悩みについて専務と対話を重ね、壁打ち相手となることで、客観的な視点の持ち方や、専務自身の考えの整理を促し経営者としてやるべきことを明確化していくという「思考プロセス」を醸成させていった。
結果、専務自身の悩みである「アイデアがでない」という課題さえも併せて解決されたのである。

伴走支援の効果

コンサルタントという職種に対しネガティブな印象を持っていた専務であったが、伴走支援を受けるうちに、支援者に対する信頼が確たるものとなっていき、自身の考えを積極的に打ち明けるようになった。また、売上を伸ばす、生産性を伸ばすなど数字に直結する支援がメインと考えていたが、支援者による従業員に対する面談方法のレクチャーを受けているうちに、数字だけにとどまらずその裏に存在する「本質的な課題に応えるのが伴走支援」だということも実感していった。
そうした数字の裏に存在する本質的な課題の存在を、当社自身が意識するようになった結果、ホワイトボードに課題をポストイットで貼り付ける社内会議を開催したところ、数値目標の話だけではなく、人材育成をはじめ目標を達成するために対応が必要な定性的な課題が出てくるようにもなったのである。
さらに、従来は離職対応として、退職の意思表示をした人に対し個別面談を行い、理由を聞き引き留めるという、起きた事象への場当たり的な対応をしていたが、伴走支援後は対応を見直し、定期的な面談を通じ日々の業務や働き方への意見を聞き、退職という行動に走る前に退職要因を解消するという取組を専務自身がアイデアを出して実行し始めた。
加えて、働いてくれる人の魅力を感じる職場づくりを行うため、人事評価制度を定期昇給の査定と賞与の査定の方法を区分するものに改定、更に社内コミュニケーション強化のための会議体の組成、教育者がいない部署における採用活動の強化、会社方針の社内への共有など、人材育成、コミュニケーション向上に向けた取組を目下加速化させている。
伴走支援がきっかけとなり、自ら考え自ら実行する思考プロセスを身に着けた組織へと変革を遂げたのである。

閲覧数ランキング

コンテンツフィルタの内容が入ります。