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〜以心伝心運営から、情意投合経営へ変革〜

株式会社スギムラ精工 (長野県岡谷市 金属製品製造業 従業員数80名 資本金1億円 売上15億円)

高い技術力を誇り、複数の上場企業からの連携の要望も受け、近年急激な規模拡大をしていた当社であったが、経営者自身において外部の知見の適切な活用方法が分からなかったため、課題解決プロセスが自力作善になりがちな社風となってしまっていた。 そこで支援者は、自身が外部者であることを活かし、経営者との傾聴と対話や、ワークショップ等による従業員からの意見収集を通じ、外部の知見の活用方法について経営者に示すことで、企業の自走化に向けた一つの考え方、行動として「有効に外部知見を活かせる社風」を根付かせていった。


本事例のポイント

【信頼関係の構築】
現社長の父親が始めた町工場からスタートした当社では、親族で協力して課題に対応してきた背景があり、どのように信頼できる外部の相談相手を見つければよいのか、苦悩していた。この点、本支援は、当社と取引のある金融機関から紹介された支援者であったため、支援者に対する一定の信頼はすでに獲得できていた。そこで、支援者はさらに信頼関係を深めるため、傾聴する姿勢を順守。頻繁に会社を訪問し、経営者の悩みを真摯に傾聴し、対話を重ねることで、徐々に経営者との距離も縮まっていき、仲介者を通しての信頼ではなく、当社と支援者との間における直接の信頼関係が構築されていった。

【従業員の意見の汲み上げ方について示す】
当社では、短期間で急激に企業規模が拡大したこともあり、経営管理体制の変革が追いつかず社内でのコミュニケーションが希薄化していた。また、各取締役はそれぞれが担当業務を抱え、部下を指導・育成するフルタイムワーカーであり、経営と業務の双方を日々こなす、多事多端な状態であった。そこで、支援者は、自身が外部者であることを活かし、従業員の意見を収集するための手法やツールをワークショップやアンケートを通じ、従業員側からの有用な意見を上手く汲み上げ、経営に反映させる方法について示した。

当社の背景

1980年創業。金属プレス加工及び金属プレス用金型の設計製作を行っており、高い技術力を有する。2017年には、他社大手自動車関連企業からの大型受注を獲得。当該受注に応えるため設備投資を盛んに実施し、量産体制の構築と更なる技術力を強化。同時に、会社規模は急拡大しており、売上高は2020年度に11億円であったものが2022年度には15億円、従業員数は50名から80名と著しい成長を見せていた。
一方、急激な規模拡大は固定費や設備投資による負担も拡大させ、一時的に債務超過にすら陥っていたが、2022年に日本政策金融公庫等による資本性劣後ローンの融資を獲得し、財務状況が改善。資本性劣後ローンの優良事例としても取り上げられるなど大きな成果を見せていた。
しかし、急激な規模拡大と、新型コロナウイルス感染症のまん延による、懇親会等の停止やマスクで表情が見えづらい環境が影響し、経営者と従業員の間に距離ができ、従業員の末端まで上手く経営者としての意志や想い、経営理念が伝わらず、結果、従業員の顔つきも昔と違っているように見えるといった悩みを抱えていた。

支援の流れ

【アンケート、ワークショップの実施、結果の経営者へのフィードバック】
支援者は、本支援への期待値に対するギャップを生じさせないため、初めに伴走支援事業の説明を当社経営者に対し実施。経営者が伴走支援事業の趣旨や対話と傾聴という手法を通じた支援がなされることを理解した後、各取締役(全員が社長の親族)に対し、同様に事業説明を行った。これにより、関係者において本支援が社内で実施されることの合意がとれた。
次に、経営者に対し現在抱えている課題や悩みについてヒアリングを実施した。その結果、「組織の末端まで経営者の想いが届いていない」ことが、経営者の最大の悩みであり課題であることが浮かび上がった。また、そうした状況を生み出しているのは、組織規模の拡大に伴い取締役だけでは全ての従業員を管理できなくなってきているにも関わらず、従業員の登用プロセスが定まっていない状況であることがわかった。
そこで、まずは、従業員に対しアンケート調査を実施するとともに、従業員を対象に特定テーマについて自身の考えをホワイトボードに張り付けていくワークショップを開催。
経営者の考えや経営理念、社内で課題と感じていること等をテーマに自由に意見を述べる機会を作ることで、従業員の意見、および従業員との認識の乖離について経営者に明示した。

【社風を変える】
支援者は従業員の意見をまとめた結果を経営者にフィードバックした。経営者が考える以上に経営者の想いと従業員の考えとのギャップがあることが浮き彫りになる内容であった。組織の末端まで経営者の想いが伝わっていなかったことを改めて経営者としても認識するきっかけとなり、何を従業員が気にしていて、経営者や管理者が何を情報発信したらよいか、何よりも、「情報を見える化」するためには支援者という外部者の力を借り、経営者と従業員双方の意見を交換する場を設けることもまた有効であるという「気づき」を経営者に与えることにもなった。また、それは、経営者だけの気づきにとどまらず、他の経営幹部における気づきにもなった。
たとえば、部長達は以前にもまして自身の部下の意見を積極的に他の部長と共有するようになり、また、採用活動に係るコンサルタントを雇用することや、ものづくりを部下に啓蒙するために社外からものづくりマイスターを招聘するなど、取締役だけでは対応が追い付いていない課題について社外の者の力を借りる取組としても「気づき」の効果は表れていった。また、親族であるからこそ意思疎通ができていると思い込み十分な議論がなされていなかった取締役会でも、伴走支援で実施された手法を転用し議論の内容や考えを紙に書いて共有され始め、お互いの意思疎通を図りつつビジネスとしての議論ができる空間に変わっていった。
こうした経営幹部や管理職の行動は従業員にも波及していき、経営者が現場に行けば「従業員のやる気」を従業員の態度、表情、行動から実感できるまでにもなった。
そして約1年の期間をかけ、支援者が経営者や現場と対話と傾聴を重ね続け、時に他の会社の取組を引用するなど、外部者や他社としての視点や意見を提示していった結果、経営者を筆頭に少しずつ社内の雰囲気が社風として定着し始め、「有効に外部知見を活かせる社風」へと変貌をとげていった。

伴走支援の効果

伴走支援がきっかけとなり外部知見の活用方法を見出した当社では、以前より検討を進めていた外部採用者である品質保証部長を次期取締役に選任する案など、経営体制の変革に向けた取組の有効性について助勢を得ることとなった。
また、「組織として仕事をする」「組織の末端まで想いを伝える」という組織体制を作るため、コロナ禍で停止していた社内懇親会を再開。早速、会社負担で自由に懇親会を開催させたところ、若手従業員の参加率も高く、また経営者自身も参加することで殆ど関わりをもたなかった若手従業員達との交流を深める機会ともなった。
組織の末端まで想いが伝わらなかったのは、経営者が「従業員は自分の想いを汲み取ってくれているであろう、伝わっているであろう」と考え、意識的に繰り返し自分の想いを明示、発信まではしていなかったこと。そして、従業員が経営者の想いが汲み取れなかったために、当社の進むべき方向性について共有できていなかったことが要因であるということの気づきの場ともなり、経営者・役員・管理職の皆がコミュニケーションの重要性を改めて実感した。
その後、目的や計画性を持った指示や目標設定を心掛けるようになり、社内の業務や業績も次第に計画と実績の比較ができるようになってきている。
このように、伴走支援で示された「外部の活用方法」「意識的、明示的な想いの発信」という手法が、当社内にPDCAとして組み込みこまれ、組織として実践されていくことで、経営者従業員が一体となった「会社」へと変革を遂げ始めたのである。

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