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〜「チーム経営」に向けた従業員の意識改革〜

酒井伸線株式会社 (奈良県大和郡山市 金属製品製造業 従業員数43名、資本金3千万円 売上10億円)

「会社の未来は従業員と一緒につくりたい」という社長の想いと従業員の考えにギャップが存在していた。支援者は、社長との対話と傾聴を重ね、社長自らが当社のビジョンを文字化。支援者は、このビジョンの実現とともに、従業員の意識変革に向け支援することとした。従業員参加型のワークショップによって、社長の想いやビジョンを共有するとともに、従業員自身が会社の課題や経営について考えるきっかけを与え、従業員の経営意識の醸成を図った。この結果、従業員自ら、課題のリスト化や解決のためのアクションプランを作成するなど、従業員が会社の未来を自分事として考える社風へと変革させ、自走化への道筋をつくることができた。


本事例のポイント

【信頼関係の構築】
当社の社長は、行政機関や金融機関に対して、本当の「弱さ」や「悩み」を気づかれたくないという意識を持っていたが、社長が本音で話さなければ、表面的な支援で終わることは明白であることを伝え、会社としての将来に対する不安な気持ちや本音を申請時に記載いただき、8回に及ぶヒアリングを通じて、社長、従業員の声に真摯に耳を傾け続けたことで、社内で本音を言ってもいいという安心感が醸成されるとともに、支援者に対する信頼が構築されていった。

当社の背景

ものづくり産業にとって厳しい環境下の中、当社は、自社の未来、日本の未来に対する不安を抱えながらも、Made In Japanの信念を胸にものづくりに励み続け、業績は年々上昇。しかし、国内における伸線業界の市場が徐々に縮小し、他者の市場退出に伴い残されたパイを分け合うプレイヤーが減っていったことが業績上昇の一要因ともなっていた。市場退出をする同業他社や大企業を見て、明日は我が身と感じ、時には「事業を縮小しなければならないのではないか」というネガティブな考えもしばしば頭をよぎることもあった。そのような中、「未来を志向する」というテーマを掲げた本事業の存在を知り、当社の未来に向けて伴走支援事業を活用することとなった。

支援の流れ

【会社の想いを落とし込んだ支援方針の策定】
当社は「未来を志向する」という奈良よろず支援拠点における伴走支援事業のテーマへ共感を持ってはいたものの、伴走支援事業でどのような支援がなされるかの具体的なイメージがつかないという状況にあった。一方、当社は伴走支援事業に対し「何かしてくれるのではないか」という漠然とした期待感があり、求められる資料は全て提供するなど、支援者に対し協力的な姿勢を示していた。
支援者は、言葉を尽くして支援内容をあらかじめ説明するのではなく、実際に伴走を実践しながら支援を体感してもらうことが可能であると考えた。また、「会社の未来は従業員と一緒につくりたい」という社長の強い信念も初回面談で窺い知れたことから、対話と傾聴によるコミュニケーションを深く重ねながら、支援者が社長と従業員の仲介役となって社長の想いを従業員に伝えるとともに、従業員に経営意識を持たせ、社長と従業員がチームとなって経営を考える「チーム経営」に向けた環境づくりを目指すための、従業員の意識改革支援を実行することとした。

【社長の想いを深掘り】
支援者は、社長と4回にわたる対話を実施。社長が、当社の現状、当社の未来について何を考え、どのような不安や課題感を持ち、そして、それらを踏まえどのようなビジョンを持っているかを具体的に深掘り確かめていった。この点、当社は以前に外部コンサルの支援を受け、その時に「経営理念を新たに作る」ことを提案されたことがあったが、そもそも経営理念は社長が考え、社長の中に有しているものとの認識があり、何よりもコンサルが語る教科書的なアドバイスや経営論なら、本を読めばわかるという意識もあったため、実現に至らなかった過去もあった。
しかし、今回の伴走支援では、支援者は社長自身の想い、会社そして日本の未来さえも憂える熱い経営哲学に耳を傾け続けることで、一般的なコンサルとは根本的に異なるアプローチを行った。結果、社長の心の中にあった当社ビジョンが文字として落としこまれた。
<当社のビジョン>
✓未来の需要を開拓 挑戦し続ける
✓素直で 利他的で 帰属意識が高い社員
✓会社 や 仕事 を楽しむ
✓その結果として 自ら 育つ会社 となりたい

【社長の想いを従業員に共有、経営を考える機会を提供することで、従業員の意識を変革】
従業員(課長や係長、計5名)に対し、「当社のビジョン」と、その背景にある社長の想いを支援者から伝達するとともに、社長の想いやビジョンをテーマに、従業員同士で自由に想いを語り議論するワークショップを、支援者によるアレンジの下4回にわたり開催。なお、社長が同席すると社長の場となってしまい、従業員に気遣いが生じてしまう恐れがあるため、従業員だけの集まりとした。
社長がどのような考え方を持ち、どのように考えているのかという情報は従業員にとっては新鮮であり、また、外部者である支援者が組成した場ということもあり、経営の視点や想いに触れながら雑談から始まり次第に議論へと移行していった。やがて、従業員から、当社の課題は何かという話が自然発生的に出始めるようになり、課題がリスト化されていった。
リスト化された山積の課題を前に、従業員から「こんな社風にしてしまって社長に申し訳ない」と、ふと声が漏れるようになり、「何とかしなければならない」と従業員が真剣に、経営を、そして会社の未来を憂い、会社の未来を私事として前向きに考え始めた。
更に、支援者は課題解決のためのアクションプラン作成を従業員に促した。すると、A3で6枚、150項目にも及ぶ課題とアクションプラン案が従業員自身の手によって作り上げられたのである。
今後、アクションプランを具体的な取組として実行するべく、伴走支援の後半を開始していくこととなった。

伴走支援の効果

これまで、社長が何を考えているかが分からず、会社の未来を自分事として考えるという発想を持てなかった従業員たちが、自発的に自らの手で課題をリスト化し、アクションプランを作成。会社の未来を自分事として考えるようになり、未来に向けた自発的な取組を開始するようになった。また、社長の目から見ても、従業員との会話の際に、従業員の発言の中に経営という視野が入ってきたことを実感しており、今後、社長と従業員がチームとして会社の未来を創っていくことが期待される。

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