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~不確実性の高い将来を築く、生産的で創造的な経営会議の構築~

株式会社 池田紙器工業(熊本県熊本市 紙製品製造業 売上約6.5億円)

本支援では、当社の中期経営計画のさらなる精緻化、具体的なビジョン、ミッションの策定をテーマに、社長の子息をはじめとする次期ボードメンバー(経営層)による経営会議を中心に進めることとした。メンバー各人が自部門のスペシャリストであるがゆえに、議論が発散し、なかなか思うように着地しない状況を改善するため、支援者自身も本会議に参加し、検討を前に進めるためのファシリテーションや意見出し、モデルケースとなる他者事例の提供、数値シミュレーションなどによりサポートを行った。これらの取組の結果、経営会議から出た具体的な施策による一部の成果も表れ始め、コロナ禍で一度落ち込んだ業績も回復し、今期は過去最高の売上の見込みとなっている。


本事例のポイント

【信頼関係の構築】
社長から悩みを打ち明けられ、支援者の考えや知見を求められた際、単なる知見やノウハウを共有するだけでなく、自身の経験に基づく血の通った情報を提供するよう心掛けた。支援初期の段階の対話の中で、社長の悩み・本質的な課題の解決に貢献できる支援者であることを感じていただけたことが、信頼関係構築につながったのではないかと思う。

【企業内部の議論促進に向け、時には伴走支援者も手を動かす】
伴走支援といえども、手放しに「本質的な議論を心掛けて協議・検討してください」では無理がある。より本質的な議論を実施し、「企業が理想とする将来像に近づいていくには何が不足しているのか」を詳細に把握する必要がある。議論を進め形に落としていくためのひな形が必要なのであればひな形を、他社事例等参考となるモデルケールが必要なのであれば情報を。時には支援者が手を動かしてでも提供することが必要であると考える。

当社の背景

当社は昭和28年創業の紙製品の製造会社であり、現社長は2代目となる。コロナの影響を受け一時は業績が低迷、その際に現社長は当社が抱える経営課題の本質的な解決の必要性を強く感じ、地元金融機関系のコンサルタントに依頼し、中期経営計画の策定および人事制度の再構築に取り掛かっていた。

支援の流れ

【様々な課題に悩む社長に正面から向き合い、伴走支援者としての信頼を獲得する】
支援者であるよろず支援拠点は、当社の社長から以前にも相談を受けており、面識のある関係であった。拠点担当者は、社長からコロナの影響を受け業績が落ち込んでいたこと、そうした状況を踏まえ本質的な経営課題解決の必要性を感じていたことを聞き、伴走支援を紹介した。
当社に対する伴走支援が開始したのは2020年9月であったが、ちょうどその頃当社は中期経営計画策定に取り組んでいたところであり、本支援においても「中期経営計画の策定(さらなる精緻化)」をテーマに据えたいという社長の意向が見受けられた。
当社の社長は努力家で、知識やノウハウ、マインドセットなど、経営者としての要件を極めて高度に備えているという方と支援者は肌で感じていた。そうした社長から、支援開始に当たり、いくつもの悩みが投げかけられた。支援者は、経営コンサルタントとしての知見や過去の経営者としての経験を基にその問いかけに答えた。今思えば、社長は、中期経営計画策定というテーマに対する伴走支援者として、信頼に足る人物か否かを見極めようとしていたのではないかと理解した。実際に、ここで社長との信頼関係が築けたのではないかと思う。以降、社長からは、中期経営計画や、その策定を進めるうえでの自身の考えやビジョンを惜しまず話していただけるようになった。

【次期ボードメンバー(経営層)を召集した経営会議に参加、本質を捉えた議論を促す】
本支援開始時点における中期経営計画策定の進捗状況としては、当社の現状分析までは終わっており、それらを踏まえた今後のビジョン・ミッションを具体化していく段階であった。社長は自らがビジョン・ミッションを考え定めるのではなく、将来の当社をけん引する次期ボードメンバー(社長の子息を含む7名の経営幹部)で議論し具体化していくことを望み、そのように次期ボードメンバーに指示していた。
支援開始時には、既に次期ボードメンバーによる経営会議体が存在しており、そこで新たなビジョン・ミッションについての議論が交わされていた。ここに召集されている7名の経営幹部は、各人が自身の領域を熟知しているスペシャリストであった。議論や発言内容に極めて深みがあり、驚かされた。ただこうしたケースでは、議論が発散し、なかなか着地しない、議論が徐々に本質から逸れてしまうという事象がよく見受けられ、当社も例外ではなかった。
支援者は、各人の深い知見を結集し、よりよい議論を重ね、最高のビジョン・ミッションを作り上げられるよう、経営会議の議論をファシリテートし、場合によっては支援者自身が手を動かしながらも着地させることが当社に提供すべきバリューであると考えた。
経営会議では、議論が活発に行われ、様々な観点や情報が次から次へと挙がっていく点は非常に良い点であった。一方、会議の中で出てきた観点や情報を租借し、ビジョン・ミッションを突き詰めていくための本質的な論点を抽出する点が不十分であり、議論がなかなか着地できない要因であると理解した。
そのため、支援者は、一つの議題に対しある程度の情報や観点が出された段階で、今までの議論および情報を整理し、「今までの議論を踏まえて、検討を前進させるために次に議論すべき本質的な議題は何か」を問うようにした。
また、次期ボードメンバーは過去に中期経営計画を策定した経験がなく、なかなか本質的な論点を抽出しようにも判断基準や感度が備わっておらず、悩んでいる様子がうかがえた。このため、支援者は、可能な限り当社にとってモデルケースとなりうる他社事例をピックアップして提示のうえ議論を進めるなど、次期ボードメンバー各人が方向性の本質を見極めるための判断基準・感度醸成を図るよう心掛けた。そのような工夫も功を奏し、徐々に議論が本質を捉え始め、ビジョン・ミッションが経営会議の回数を重ねるごとに具体化していったように感じた。

【徐々に精度が上がる経営会議、鮮明になっていくビジョン・ミッション】
経営会議の議論は、徐々にビジョン・ミッションの枠を超え、実施すべき(各人が実施したいと思っている)具体的な施策にまで及ぶようになった。会議は非常に前向きな雰囲気で極めて生産的・創造的な場になってきた点は、支援者としてもわくわくした。ただ、そもそもビジョン・ミッションとは目に見えるものではなく、抽象的であり不確実性の高いものをベースに進めていくことになるため、可能な限り定量的に、数字に基づいた議論をすることで、議論の曖昧さを排除することが重要である。例えば議論の対象となっている事業について、その事業構造を分解のうえ各ステップにおけるKPIを設定、各人が実施すべきと考える施策は、「定量的観点から見ると、どのKPIがどう変動するから何が変わるのか」を意識した議論を促した。その際に必要となるKPI設定やそれらを踏まえた議論のひな形等に関しては支援者が用意し、それを場合によって参照しながら経営会議を推進した。
抽象的なものを前提としながらも、定量的観点(KPIなど)を織り混ぜながら可能な限りあいまいさを排除した議論を実施するよう自身も心掛け、かつ次期ボードメンバーにも促したため、実際の事業や不確実性の高い将来を最大限イメージしながら議論を進めることができた。実際の活動に際しては、何をいつまでに実行することが必要なのか、いわゆるアクションプランについても具体化するよう促した。その甲斐あって、ビジョン・ミッション、またそれの達成に向けた具体的な活動内容がどんどん鮮明になっていった。

伴走支援の効果

経営会議では、引き続き、高品質で生産的・創造的な議論が交わされている。そこから出てくる具体的な施策はいずれも効果的で実行性に自信を持てるものが多く、一部成果も表れ始めている。当社の業績は、コロナ禍で一度落ち込んだものの既に回復し、今期は過去最高の売上見込みとなっている。実際に本支援が浸透し、結果が最大限発現するまでにはある程度時間がかかると考えているが、本経営会議を、その質の高さも含め維持し続けていくことがさらなる結果につながると期待している。

 

 

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