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〜社員のオーナーシップによる顧客の声を起点とした組織づくり〜

株式会社トレンディ茨城(茨城県水戸市 運輸業 従業員数36名 資本金2,000万円)

当社の伴走支援パートナーの茨城県よろず支援拠点では、丁寧な対話と傾聴によって支援企業の強みや魅力を導き出していく手法を「ポテンシャル診断」と名付けている。ポテンシャル診断を進める過程では、これまで経営陣や社員が意識していなかった様々な気づきが生じる。今回においても新たな気づきが課題解決のためのカギとなり、社員一人ひとりが主役になるような取組と、部門を越えた連携が組織づくりに大きな変革をもたらした。


本事例のポイント

【対話と傾聴を重視したポテンシャル診断による気づきの誘発】

茨城県よろず支援拠点が開発した「ポテンシャル診断」では、経営陣のみならず管理職や社員にもヒアリング等を実施。そこから得られた会社の強みや魅力、ありたい姿を「トランスレーションレポート」として経営陣にフィードバックし、経営陣の気づきを促す。そしてその気づきを支援者が掘り下げることで、経営陣自らが長期課題を設定する自走化が図られた。

【社員がオーナーシップを持ちながら展開するプロジェクト】
社員中心のプロジェクトにおいて顧客理解に向けた議論を重ねる過程で様々な気づきがあり、そこから社員のオーナーシップが醸成された。社員の意識の変化から部門間連携による取組が展開され、事業成果に結びつく兆候が見られた。さらには様々な取組を検討し実践する過程を経て、単なる配送担当からプロ意識をもったセールスドライバーへと社員の行動変容が起こった。

当社の背景

当社は水戸ヤクルト販売会社のグループ会社として1978年に創業。一般貨物自動車運送事業を中核に保険代理店業務、ベンダー事業、飲料水やお茶の販売事業を展開している。近年は「健康優良法人」や「安全性優良事業所」に認定されるなど、地域の物流会社を牽引する存在でもある。一方で、顧客が求める価値が何であるかを知り、その実現に向けた取組の企画や仕組の構築を担える人材は経営幹部のみであった。組織の持続的成長を図るためには、顧客の求める価値を理解し改善し続ける組織体制づくりと人材育成が必要な状況であった。

支援の流れ

【ポテンシャル診断とトランスレーションレポートで現状を整理】

最初に社長と常務に2時間×3回のヒアリングを実施。支援者が「会社の歴史」「顧客の期待」「商品・サービスの特徴」「経営資源」など様々な切り口で質問を投げかけ、社長と常務がそれに答えることで会社の強みや魅力を整理していった。運送事業と保険代理店業務という独自の仕組が誕生した背景や人材育成で苦労した点、会社に対する思いを存分に聞くことができ、将来実現したい会社のありたい姿も明確になった。

トランスレーションレポートは、「顧客価値を創造する源泉となった会社の強みや魅力」「社長と常務が考える会社のありたい姿」「財務分析から見えてくる会社の投資力」のテーマで構成。支援者の説明を受けて社長と常務は、ありたい姿の実現に向けては組織力の強化が重要であるとの気づきが得られた。そして組織力を高めるためには社員が主役になるような取組が必要であるという結論に至り、社員を巻き込んで組織づくりを進めていくことが決まった。

【ポテンシャル診断レポートによる長期課題の設定】

管理職及び社員へのヒアリングは4回実施し、述べ16人から意見を聞いた。現場を担う社員が答えやすいように、「仕事を進めるうえで大切にしている考え方」や「お客様からいただくお褒めの言葉」など実務に沿った形で質問を設定。社員からは「破損を最大限防ぎお客様に迷惑をかけない」「お客様が仕事をしやすいように納品整理を行う」「グループ会社のスタッフの安心・安全を最大限考えた保険保障の提案」など様々な回答があった。

支援者はヒアリング内容をもとに、前述したトランスレーションレポートの内容に加え、「管理職や社員が考える会社の強みや魅力と会社のありたい姿」を中心にまとめた「ポテンシャル診断レポート」を作成。レポートの説明を受けた社長と常務からは、「お客様が大切という考え方が社内で浸透しているが、本当にお客様の役に立っているかは確認ができていない」「もっとお客様の声が社員に届けば、様々な改善活動がスピーディーに展開できるのではないか」「社員研修等の効果もあり、社員の対話力はレベルアップした。今後は対話力を活かして部門を超えた連携による活動が必要ではないか」など、深掘りした意見がたくさんあがった。

こうした意見交換の後、「社員のオーナーシップと社員連携を重視した顧客理解のための仕組を構築しながら、顧客本位の組織風土を醸成していく」「顧客の声を起点とした改善活動をスピーディーに展開し、顧客満足度を高めることで事業成果を拡大していく」という、会社のありたい姿を実現するための長期課題を設定した。

【社員の様々な気づきを生み出すプロジェクトの展開】

社員の中からプロジェクトリーダーとメンバーを選出し、長期的な課題解決に向けてのプロジェクトを始動。支援者は月に1度開催するプロジェクト進捗会議のファシリテート役を担い、進捗確認や意見の掘り下げに向けた支援を行った。

プロジェクトは「お客様の期待を把握することを目的とした顧客アンケートの作成と改善活動の展開」を主なテーマとし、当初は一般貨物事業(物流配送)部門と保険代理店業務部門で別々にアンケートを作成することを想定していた。しかし議論を重ねていく中で、どちらも対象とするお客様は一緒であることに気づいた。両部門は扱う商品やサービス、オペレーションが全く違うため、このことに気づきにくかったが、これをきっかけにアンケートを一つにまとめて配布することが決まった。さらに「部門同士が協力すればもっと色々な取組ができるのではないか」という気運が高まり、それが一人ひとりのオーナーシップに結びつき話し合いがより活発になっていった。

その後実施した顧客アンケートでは、約450人の回答(回収率67%)が得られた。集計データをもとに改善点を議論したところ、保険代理店業務部門ではスタッフの認知度が低いため、お客様からの保険相談に繋がっていないことがわかった。そこで改善策として、お客様にスタッフの顔と名前を覚えてもらうための自己紹介カードの作成と配布を決定。この取組において、保険代理店業務部門のスタッフだけで全てのヤクルトセンターを回るには時間がかかることから、「配送スタッフが直接手渡しで配布する」と一般貨物事業(物流配送)部門から申し出があり、部門間連携がスタートした。他にも保険代理店業務部門のスタッフが配送車に同乗してセンターを訪問する仕組や、それぞれの部門で把握したお客様の声を共有する仕組が構築。社員のオーナーシップが高まったことで、「さらにできることはないか」という考えが浸透し、部門間連携が加速していった。

伴走支援の効果

長期課題解決に向けたプロジェクトの伴走支援を通じて、社員がオーナーシップを持ちながらプロジェクトを進める行動変容と部門間連携の取組が定着。一般貨物事業(物流配送)部門との連携により保険代理店業務部門スタッフの自己紹介カードを配布したことで、お客様から少しずつ保険相談を希望する声があがってくるようになった。こうした取組が、今後保険代理店業務における顧客数や契約件数などの事業成果にも結びつくと期待できる。さらには、一般貨物事業(物流配送)部門の配送スタッフが自分達の役割を考える次元が大きく変わった。これまで配送スタッフは商品を正しく安全に届けることを自分達の使命として重視し、お客様への情報提供などはあまり注力していなかった。しかし、今回のプロジェクトを通して、お客様への提案や他部門とお客様を結びつける役割もあるという自覚が促された。配送担当からセールスドライバーとしての役目へ認識が変わり、行動変容が起こったことは伴走支援における大きな成果と考えられる。

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