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~持続的成長に向けたビジョン構築支援と次期経営陣候補者育成の推進~

テラノ精工株式会社(新潟県長岡市 製造業 従業員数42名 資本金1,000万円)

創業時、少人数で立ち上げた当社は、徐々に会社規模が大きくなってきた経緯があり、対話と傾聴では「他社ではどうか」「一般的にはどうか」という質問を多くいただいた。社長から「組織経営を習得したい、組織を強くしたい」との意向が示されたこともあり、支援チームは事前準備を入念に行うことで社長の疑問に答えつつ気付きを引き出すように伴走。特に経営ビジョンと次期経営陣育成の重要性については多くの改善余地に気付きをもたらし、大きく改善された。


本事例のポイント

【持続的成長のための経営ビジョンの明確化】
当社はIOTなど様々な取組は行っていたが、経営ビジョンは曖昧で明確なゴールが見えず、「少数精鋭で規模拡大を目的にはしない」との考えも根強かった。ビジョンがない経営は、目的地を決めずに飛行機を飛ばすようなものであるが、当社も闇雲に飛行しているような状況であった。このため経営陣の意識変容が求められ、5カ年ビジョンや基本戦略などの中期経営計画を策定し、持続的成長の道筋を明確にすることがポイントとなった。

【意志決定の主体となる経営会議体の整備】
会社の根幹にかかわる本質的課題として、次期経営者候補を中心とする経営会議体を構築することを決定し、業務の組織化などを通じて持続的成長のための基礎固めを行った。また、次世代の経営候補者に経営的意思決定の経験を積んでもらいつつ、属人化業務を解消することで事業継承を進めた。

当社の背景

当社は、業務用機械部品の切削加工・組立を行う企業として1990年にスタート。「技術は現場から進化する」という理念のもと、多品種少量生産を武器に現場の自主性を重視した製造体制を確立してきた。地の利も強みとなっており、同業他社とのネットワークを生かしながら、全国各地多様な業界に顧客を持ち、業況の拡大を実現。従業員のモチベーションは高く、低い離職率が技術の蓄積と向上につながる好循環が成立している。一方で、PDCAや管理は不十分であり、売上も一定の水準で足踏みしていることから成長の壁を迎えている印象が強かった。次期経営者候補の二代目は27歳と若く、60歳を超えた現経営陣の退陣に伴う一定のリスクも認められた。

支援の流れ

【会社の根幹にアプローチする表課題と本質的課題の設定】
表出している問題の多くは、「現場主義に偏るが故の管理統制の緩さ」によって発生していることが、対話と傾聴を通じて炙り出された。また、トップからのメッセージが不足しているために経営ビジョンや経営方針が社員に浸透しておらず、計画がないが故にPDCAも回っていないことが分かった。属人化した業務の存在や現経営陣の高年齢化も懸念されるところであったが、その一方で「現場の創意工夫から技術的進化があるため、ノルマ等による管理はしたくない」との考えも根強かった。多品種少量生産に特化して構築された製造体制はブラックボックス化が進みながらも、同社の強みとなっており、悩ましい問題であったが、支援チームは一般的な事例も示しつつ「貴社の良さを活かしながら、組織的な発展ができる方策を考えたい」と伝え、社長との話し合いを重ねた。その結果、取組課題は概ね中期経営計画の策定や属人化業務の棚卸に絞り込まれたが、結論やプロジェクトメンバーの選定は他の役員とも時間をかけて話し合い、役員全員の腹落ちを目指した。
そして、最終的な表課題は「中期経営計画(ビジョン・戦略・アクションプラン)の策定」と「属人化業務の棚卸」に設定。さらに、本質的課題は「二代目と副工場長を加えた経営会議体の構築と課題設定のバックボーンの整備」と設定された。本取組を通じて、持続的成長に向けた意識変容を促しつつ事業承継を進めるという、関東経済産業局ならではの重層的な建付けとなった。課題決定を受けて、二代目は製造部門から営業・生産管理部門に異動し、会社側の体制が整えられた。また、自主取組として現場の作業状況を可視化するためのDXも推進されることになった。

【「テラノ・バリュー」と成長志向ビジョンの策定】
中期経営計画を策定するにあたって、5カ年ビジョンをMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)形式で策定することになった。MVVの行動規範は組織として重視する価値観を明確にした上で策定し、現場の足並みを揃えることが狙いであった。ルールや制度による現場統制は当社の理念にそぐわないことに加え、社員のモチベーション低下の恐れがあることがその理由である。策定にあたっては全社員集会を開き、ブレインストーミング会議で意見を吸い上げた。結果として、当社の組織風土・文化が色濃く反映された「テラノ・バリュー」がまとめ上げられた。
MVVのビジョン策定においては、将来予測から企業のありたい姿を考えるバックキャストの思考が必要とされるため、積み上げ型の現場改善に慣れたメンバーは一様に「一番苦労した」と口を揃えたが、狙い通りに成長志向のビジョンとして結実することになった。そもそも経営会議体で議論すること自体が当社にとって初めての試みであり、頭を悩ませる場面も多かったようであるが、粘り強く取り組む中で成果を感じていただけた。

【成長戦略の具体化と、現場への落とし込み】
ビジョンの実現に向けたプロセスでは、協力会社のネットワーク化やB2Cビジネスの創出など、これまでになかった成長戦略が議論されるようになった。また、当初は遠慮がちであった二代目や副工場長の意見が積極的に出始め、自身の案が採用されるに従い、本活動に対して強い意欲を示すようになった。
KPI(重要業績評価指数)とアクションプランの検討では、不慣れな数値目標の設定に悪戦苦闘しながらも、目標を設定することで現状とのギャップが可視化され、より具体的な対応策が検討されることとなった。特に営業・生産管理の活動については、内外作区分の明確化や機会損失の低減策など、直接的に収益性の向上に資する方策が策定され、実行に移された。1年間に渡る大がかり取組であったが、ビジョンから現場の活動まで一貫した成長ストーリーが構築され、これまで放任に近かった体制から脱皮する大きな一歩が踏み出され、取組の終了時にはメンバーから意識変容を伺わせるコメントが寄せられた。ポジティブなエネルギーに満ちた状態で伴走支援が終えられ、特に二代目は進捗確認の担当者として率先して手を挙げるなど強い自覚を感じさせた。

伴走支援の効果

次期経営者候補が加わった経営会議体が構築され、今後を見据えた経営的意思決定・課題設定の主体が整備された。さらに、ビジョンが明確になることで、経営陣に成長志向の意識変容をもたらした。営業部門は1名から3名の部門として組織化され、業務の棚卸と標準化を進めている。二代目に関しては、営業・生産管理部門で会社全体が見渡せる位置で業務に従事しつつ、DX推進や経営計画のPDCA推進担当者など社内の重要ポジションで次期経営者として育成を進める体制となり、経済産業省が認定する「DXセレクション 2023」に選定されるなど目に見える成果を上げている。
伴走支援前は数値管理をしていなかったが、売上高、製造原価率、その他業務に合わせたKPIを設定し、定期的な経営会議にてモニタリングをするようになった。KPIとして設定された売上高は今後2年で20%程度の増加を見込んでいる。また、技術承継のため支援期間内に1割程度の増員がなされており、人件費や付加価値額の増加につながっている。なお、モチベーション・サーベイにより従業員満足度が維持されていることが確認できている。

 
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