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~経営課題・対策の見える化と関係金融機関等からの信頼向上を見据えた事業承継~

東京都 学術研究、専門・技術サービス業 従業員数20名以内 資本金1,500万円

東京で戦後から続く老舗の紙器製造販売会社の当社は、多くの取引先と下請事業者を有し、事業承継は自社だけでなく協力会社各社にも影響が及ぶ重要なテーマだった。後継経営者は向上心があり業界内でも信頼されていたが、関連市場の一部は縮小傾向にあり、経営課題を洗い出し資金繰りの安定化などを図る必要があったことから、事業承継を見据えた伴走支援を行った。


本事例のポイント

【資金繰りの安定化と投資効果の見える化】

本業営業を優先してもらい、夜半から深夜に至るまでの打合せを重ね、後継経営者の希望する基本的な方向性とそれに適した枠組みの調査検討を実施した。「経営改善計画策定」「事業継続上の取引リスク等の見える化・限定・対策」などの課題を設定。事業承継を機とした財務改善を図るため、共感を得られやすい改善計画を作成し、保証協会の経営改善サポートも活用して資金繰りの安定化や投資効果の見える化を図った。

【先代社長の経営者保証解除に向けた要件充足】

先代社長の経営者保証解除とともに、同社長から借り入れている工場購入原資を政府系金融機関から借り入れて、経営改善等の一助としつつ、保証解除に向けた要件充足を図った。資金繰りの安定化と先代社長の勇退を実現し、この段階での弁護士による支援に基づく本取組について、金融機関担当者から肯定的な評価を受けることができた。

当社の背景

昭和20年代創業、昭和40年代設立の当社は、紙器の製造・販売、各種包装資材販売などを営んでいる。長年の実績に加え、顧客約200社、下請事業者約100社を有するなどサプライチェーンにおいても大切な立場にある会社であった。後継経営者は3代目候補であり、スポーツに親しみ、経営者同士の学びを深めあう会にも複数参加するなど業界的な人望も厚い。他方、当社が営む事業のうち、各種包装資材に関する市場規模は人口減少に伴い縮小傾向であった。

支援の流れ

【金融支援に向けた各行との交渉のサポート】

後継経営者の希望を踏まえ、取り得る枠組や、要請すべき金融支援の選択肢と各メリット・デメリットを見える化するとともに、計画のアウトラインとスケジュール感を具体化。金融支援に向けた各行との交渉開始時には、金融支援の要請に留まらず、事業承継に関する社会的ニーズや政府の要請する諸点などに関する資料を持参し、ウィン-ウィンとなりうる方向性について後継経営者と共に丁寧に説明した。交渉開始後は各行からの工場訪問を呼び込む他、各行からの疑問点などについても適時共有し、これらの連絡内容から推測される各行の意向や問題意識等のフォローも重ねた。

【提出書類等の手続について優位に進めるための助言】

各金融機関への提出書類等については稟議制度等について助言し、これらの手続との関連で内部打合せ時には厳しい検討を重ねた。例えば、外部環境の側面では、統計調査を行ったところ、関連する包装材市場規模は軒並み減少という課題があった。この課題に対し、事業者数減少も踏まえた分析を実施。その結果、事業者ごとの市場規模という側面ではむしろ拡大とみることができるとわかり、プラスチック削減という社会的ニーズを踏まえ、紙器にも精通した当社の強みをアピールできる素地があることなどを後継経営者にアドバイスした。

【計画成立等のための検討と経営者一族との問題共有】

打合せ時に激しい議論を行わざるを得ない場面もあったが、それらの際には、その目的と理由について共通認識を確認することを繰り返した。甘い見込やあいまいな根拠ではなく、厳しい検討を重ねる目的と理由が、後継経営者の希望する計画成立等のためであると同時に当社の未来を助けるためであることを伝え、当社の少し先の未来からアドバイスと検討を重ねていること等をフォローし続けた。後継経営者には経営に関与していない兄弟もいたが、経営者一族が一丸となるべき視点と争族防止の視点から、適宜、後継経営者、兄弟、先代経営者夫妻と共に方向性の確認書類を作成するなどして問題共有と意識統一を図った。こうした過程において無事に計画が成立した他、過去の助言が功を奏するケースも重なり、伴走支援ついての当社からの評価が徐々に高まっていった。

伴走支援の効果

売上・利益の目標化に留まらず、目標達成のための重要業績評価指標を具体化し、数値の根拠を見える化。それらを踏まえて毎月、進捗確認と改善を検討する方向性へと進むことができた。ストック顧客数やWebサイトの訪問者のアクションなど営業活動の更なる見える化や、一元訪問だけではなくスピーカー(当社を優良顧客と結び付けてくれる顧客・連携先等)を活用した営業の更なる具体化などが喫緊の課題である。過去の成功体験を重視し過ぎず、顧客の具体的な生の言葉をヒアリングし、ヒアリングシートに落とし込むことを通じて、顧客の希望の変化と当社の魅力等を踏まえた戦略と戦術を検討し始めている。事業承継後、事業再構築補助金の獲得にも取り組み、新型コロナウィルス対策の追加融資などに対しても経営改善計画等を再度構築しつつ、「一歩先を見据えて」今後の方向性をさらに具体化する意向である。

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