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~取引基本契約書の見直しを契機とした取引上のリスクの注意喚起~

北陸 製造業 従業員数約200名 資本金3億円以下

継続的な取引に適用される共通事項をあらかじめ定めた取引基本契約書は、個別の取引を迅速かつ簡便に行うことに役立つだけでなく、一定の規定を盛り込むことで取引上のトラブルを未然に防ぐことにも繋がる。機械部品製造業を営む当社から取引基本契約書の見直しの依頼を受けた支援者は、当社の顧問弁護士として本件を契機に紛争予防の観点などからも助言を行った。


本事例のポイント

【事業者のビジネスと製品特徴を踏まえた上でのアドバイス】

支援者はまず、取引基本契約書の見直しの前提として、当社の取引の流れとその他ビジネスの仕組、製品の特徴を理解するために担当者と面談の機会を設定した。製品に関しては、どのような用途に使用され、高度の安全性が求められるものなのか、保管上の留意点等も含めて把握。また、受発注方法、受注から出荷までの流れ、製品保証の内容、取引基本契約書の規定内容と現在のビジネスの実態とがずれている事項、これまでの取引で問題がありそうだと感じた事項等についてもヒアリングを行った上で助言するように努めた。

【取引における法的リスクの理解度向上による紛争予防】

本件を契機に、「取引契約におけるリスク管理の実現」を課題に掲げ、取引における法的リスクへの理解を深めてもらうこととした。例えば、製品の仕様については具体的に数値化できるものは数値化し、抽象的あるいは包括的な性能保証はせず、仮に一定の性能保証をする場合でも前提となる使用条件を明確化しておくなど、細かな事項を説明。また、製品保証期間を明確に定めておくことの重要性についても担当者の認識が深まった。契約の際にはこれらを意識した契約内容にすることができるようになった。

当社の背景

1940年代に創業した当社は、機械部品製造会社として産業用機器の部品を製造しているほか、消費者向け製品の部品も製造している。当社が販売代理店と継続的取引契約の解消をめぐって法的トラブルになった際に紛争解決支援を行ったことなどを機に、支援者は当社と法律顧問契約を締結していた。ただし、法的トラブルが発生しそうな場合の相談以外には、普段は頻繁に相談があったわけではなかった。そのような中、当社が使用している取引基本契約書が相当古いものであり、現在の取引の実態とも合っていないところもあるため、一度取引基本契約書の見直しを行いたいとの意向があり、支援者への相談に至った。

支援の流れ

【リスク回避のための説明と助言】

ヒアリングの際には、現在の実情について丁寧に聞き取った上で、法的トラブルに繋がりやすい箇所やビジネス上重要な箇所については意識的に質問を行った。対話と傾聴を通じて、なぜそれらが法的トラブルに繋がりやすいのか、ビジネス上重要なのかを解説。リスクがある場合にはそれらがなぜリスクと考えられ、できるだけリスクを回避する方法としてどのようなものがあるのかなどを説明し、理解してもらうことに努めた。

【卸売業者に対する転売制限のための対策】

当社はエンドユーザーが消費者となるある機械部品を卸売業者に対して販売し、卸売業者はそれを主に機械整備業者に販売しているが、ヒアリングの過程で卸売業者の中にはそれをインターネットで消費者に直接販売している会社があることがわかった。この機械部品の取扱いについては安全性の観点から専門的・技術的知見が必要であるため、インターネットで消費者に直接販売することは控えさせたいなどの要望も担当者から出てきた。これに対しては、公正取引委員会が定める「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」について説明し、どの程度の制限までが認められるかについても理解してもらった上で、取引基本契約書に一定の規定を入れることとした。

【事業の実態に即した取引基本契約書の作成】

このような過程を経ることにより、単に市販されている書籍等に掲載されている取引基本契約書をその内容について理解することなくそのまま利用するのではなく、当社のビジネスにおいて重要な事項や法的トラブルにつながりやすいところを担当者に十分理解してもらった上で、当社の実態に即した取引基本契約書を作成することができた。

伴走支援の効果

対話と傾聴を通じた取引基本契約書の見直しと作成により、当社のビジネスにおいて法的トラブルになりやすい点についての理解が深まり、リスクを回避するための対応が一定程度自社でできるようになった。製品の仕様や製品保証期間を明確に定めておくことの重要性についての認識が深まり、契約の際にはこれらを意識した契約内容にすることができるようになった。その後、新しい取引先から、開発中の新製品のパーツに使いたいという引き合いがあった際に、取引の特性を考えて契約でリスクヘッジをしておく必要がないかとの相談があり、最終的にはリスクヘッジを目的とした製品仕様と製品保証についての覚書を締結するという対応も行った。自社でのリスク管理が実現したことで、必要に応じて弁護士の知見を求めるといった対応ができるようになった。

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